見出し画像

『安倍晋三 回顧録』:赤裸々&赤裸々。政治に詳しくない一般人が読んでもめっちゃ面白いワケ。

はじめに

『安倍晋三 回顧録』がとても売れているようだ。本屋やAmazonでも品切れ状態が続いているらしい。それもよく分かる。何せこの本、政治に詳しくない一般人が読んでもめっちゃ面白いのである。

面白い理由は明確だ。各政策の"WHY"が赤裸々に語られているからである。逆に言えば、首相在任中はここまで赤裸々には言えなかったということだろう。
一国民としては政策実行中に”WHY"を明確に説明して欲しいのだが、まぁ、それは何かと難しいのだろう。全編に渡って面白いのだが、以下特に面白かった箇所を何カ所か紹介する。

コロナ対策

2020年からの数年間はなんと言っても新型コロナ禍であったわけだが、多くの人にとっても納得感のない政策が多かったのでは無いだろうか。
その要因の一つは政府が全体の政策を管理・調整出来ていなかったことと思う。本書には、なぜそのような状況になってしまったかの背景について、いくつか描かれている。

ー抗ウイルス薬の「アビガン」は、新型コロナの治療薬として承認を目指しましたが、実現しませんでした。安倍さんは5月4日の記者会見で、5月中の承認を目指す考えを表明していたにもかかわらず、承認されませんでした。
[…]
 5月4日の記者会見で表明する前に、厚労省の局長は「アビガンを承認します」と話していました。しかしその後、薬務課長が反対し、覆ったのです。後日、「難しくなりました」と言われました。厚労省は、私の考えが甘い、という感じでした。でも、それほど危険だったら、インフルエンザの薬としてなぜ承認したのか。危険ならば、新型コロナの臨床研究でも使うはずがないでしょう。
 薬事承認の実質的な権限を持っているのは、薬務課長です。内閣人事局は、幹部官僚700人の人事を握っていますが、課長クラスは対象ではない。官邸が何を言おうが、人事権がなければ、言うことを聞いてくれません。

37p

政府といえども、当該政策を所管する役所の人事権が及ばなければ、政策をコントロール出来ないということの一例だと思う。正しい・正しくないは別として、意思決定のコントロールが誰にも出来ないのであれば、全体がバラバラになるに決まっている。

ー「官邸一強」と呼ばれた体制が、新型コロナへの対応では迷走しました。検査や病床確保の「目詰まり」の正体は何だったのでしょう。

 感染症への対処は国の責任ですが、権限的にも予算的にも国が介入できる手段が少なかったということに尽きると思います。指示する権限や仕組みが無いので、自治体や保健所、医療機関を国が動かせない。その壁は厚かった。
 民主党政権時代の12年に制定された新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)は、自治体に多くの権限を委ねています。首相が緊急事態を宣言しますが、具体的な外出自粛の要請や、営業時間の短縮要請、医療施設の確保などは知事に委ねている。国の役割は、総合調整です。こんなの欺瞞でしょう。政府の責任で感染防止に当たるように書くべきです。民主党ができの悪い法律をつくってしまったのです。

34p

これも責任と権限が曖昧なために、誰も全体をコントロール出来ていないことが伺える。
もしこんな状況、『シン・ゴジラ』のカヨコ・アン・パタースンがいたらこう言われそうだね。

あなたの国では誰が決めるの?

シン・ゴジラ

感想

とまぁこのように言葉に遠慮なく、あの時のその時の舞台裏を赤裸々に語ってくれている。

新型コロナ対策の他にも、アベノミクス、モリカケサクラ、TPP、各国首脳、集団的自衛権行使容認、日韓歴史問題、自民党内人事、等、まだ記憶に新しいトピックについて裏話が満載だ。
通常、このような回顧録が出版されるのはもっと後らしいが、安倍さんが残念ながらあのような形で暗殺されてしまったことを受け、今回のタイミングでの出版となったらしい。

同時代に安倍長期政権の中を生きた者であれば、各出来事の背景を知るという意味で、とても面白い一冊なことは間違いないと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?