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バングラデシュ便り~学ぶって楽しい!児童婚防止のために声を上げた女の子

全長125キロメートルにおよぶ世界最長のビーチがある観光地として有名なバングラデシュのコックスバザール。近年は、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャが暮らす難民キャンプの存在で知られています。少数民族ロヒンギャの人々は、ミャンマー・ラカイン州において、数十年にわたり国籍を得られないまま差別や暴力の標的となってきました。2017年8月にミャンマーのラカイン州で大規模な衝突が起こり、この地域に暮らす大勢のロヒンギャがコックズバザールに一気に避難してきました。
2022年10月現在、コックスバザールの難民キャンプがあるウキア郡・テクナフ郡に住む無国籍のロヒンギャ難民は94万3,000人以上に上っています

そんななか、この度、バングラデシュのプラン・インターナショナルから、コックスバザールのホストコミュニティ(難民を受け入れている地元コミュニティ)に暮らす一人の女の子についての嬉しい知らせが届きました。

学びたい気持ちを胸に秘め、家事手伝いに明け暮れる日々
シャヒナさん(仮名)は、バングラデシュのコックスバザール、テクナフ郡のホストコミュニティに、両親と2人の兄弟とともに暮らす16歳の女の子です。ロヒンギャ難民を多く受け入れている彼女のコミュニティでは、長びく貧困のなか収入を得る機会が無く、一家の稼ぎ手である父親は家計を支えるために大変苦労していました。経済的困窮から、シャヒナさんは小学校を1年生で中途退学し、その後はずっと、学びたいという気持ちを胸に秘めつつ家事手伝いをして過ごしてきました。

非公式教育を通じて再び得た学びの機会
そんなシャヒナさんは、ある日地元の支援団体とプラン・インターナショナルが運営している「オーキッド・ユースクラブ」の存在を知りました。このクラブは、シャヒナさんのように学校に行く機会を逸してしまった思春期の女の子たちを支援するために作られ、彼女たちに非公式教育を提供しています。

父親の励ましもあり、シャヒナさんは、自らの意志でこのクラブに入会することを決めました。彼女は、自分と同じような問題を抱えている女の子たちと出会いともに支え合いながら、経験豊富なクラブの教師による指導のもと、新しい知識をどんどん吸収し自分の能力に自信を持てるようになりました。

オーキッド・ユース・クラブで勉強に励む女の子たち、シャヒナさん(左、ピンクの服)
写真: Asif Almas/FIVDB

シャヒナさんは、「クラブに入ったことで、数学、ベンガル語、英語などたくさんの科目を学ぶことができるようになり、とても嬉しい」と語ります。

しかも、このクラブでは、学問を学ぶだけではなく、子どもの権利や保護についての知識も得ることができます。特にシャヒナさんが暮らすコミュニティで一般的に行われている早すぎる結婚(児童婚)を防止する方法について学んだことで、シャヒナさんは「我こそが児童婚を防止すべき」と自分の役割を自覚するようになりました。以来シャヒナさんは、児童婚を防止するための活動に精力的に取り組み、周囲への意識啓発を続けました。
 
地域の児童保護委員会の協力も得て地道に続けた彼女の努力は実を結び、コミュニティ内で4件の児童婚を未然に防ぐことに成功しました。この活動を通じて、シャヒナさんは、自尊心を高め、オーキッド・ユースクラブを通じて得た素晴らしい機会と経験に心から感謝しているそうです。

シャヒナさん(左から4番目ピンクの服を着用)を含むオーキッド・ユースクラブのメンバーたち写真: Asif Almas/FIVDB

シャヒナさんの話は、このクラブがコミュニティの女の子の人生にもたらした成功例のひとつに過ぎません。このクラブは、社会的な差別や偏見・貧困の連鎖を断ち切り、女の子たちが自分の可能性を最大限に発揮できるように支援しています。クラブでは、女の子たちが安心して学び成長し、日常生活で直面するさまざまな課題を自分の力で克服するために役立つライフ・スキルを習得する場を提供しています。また、ジェンダー平等を推進し、彼女たちが自分の人生を自分で決め、地域のリーダーとなれるよう後押ししています。


難民とホストコミュニティ双方に寄り添うことが大切
2017年以降5年半もの長い間、大勢の難民を受け入れてきたコックスバザールの地元コミュニティは、難民が来る前から貧困に苦しんでいました。難民の流入と長引くキャンプ生活に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、コミュニティの経済的な負担が増すなか、難民とホストコミュニティ住民の間には次第に軋轢が見られるようになりました。
ホストコミュニティの人々は、自分たちも厳しい状況に置かれているなか、難民ばかりが支援されることに対する不満を募らせ、両者の間ではたびたび衝突が発生するなど緊張が高まっています。

2018年に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」でも、受け入れ国やホストコミュニティへの支援を充実させ、負担と責任を軽減することの重要性が強調されています。
世界で、迫害、紛争、暴力、人権侵害などにより故郷を追われた人の数は、2022年5月には1億人を突破したことが発表されています。
世界の難民の85%が開発途上国で受け入れられているとの報告があるなか、難民を支援する際には、受入れ国側への支援も念頭に、バランスの取れた対策が必要です。