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ビジネスに踏み込み、デザインの領域を拡張する──コミュニケーションデザイナーを束ねる右田祐二へのインタビュー

ユーザーとのあらゆるタッチポイントにおいて体験設計を担い、顧客ロイヤルティの向上を図るコミュニケーションデザイナー。今回はプレイドのコミュニケーションデザイン領域を牽引しながら、チームヘッドを務める右田祐二にインタビュー。

チームを組成するなかで重要視していることや、コミュニケーションデザインと向かい合う姿勢について、その考えや方針を伺いました。




“顧客体験”を軸に幅広い領域を手掛ける

──まずは簡単に自己紹介をお願いします

制作会社で経験を積み表現の幅を広げた後、心機一転 BtoC の事業会社に転職し、EC ビジネスの立ち上げからグロースを担当していました。そのなかでどんなユーザーに対しても画一的なコミュニケーションしかできないことに課題を感じており、オンラインにおける一人ひとりのユーザー体験にフォーカスしていたプレイドに、2016年にジョインしました。現在8年程在籍しており、昨年からコミュニケーションデザインチームのチームヘッドに就いています。

──コミュニケーションデザインチームについて教えてください

プレイドにおけるすべての事業のサービスサイトや資料など、プロダクト以外の「ユーザーとの顧客接点」をデザインしています。主な業務は、マーケティング・セールス・カスタマーサクセス活動をデザイン面で支援することです。プロダクトデザイン以外のすべての領域が対象範囲で、イベントやメディアなどで必要となるデザインも、社内向け・社外向けを問わずコミュニケーションデザインチームが担当しています。

KARTE サービスサイト

たとえばマーケティング領域では、各プロダクトのサービスサイトの改善を日々続けています。クリエイティブの制作に限らず、実績データやビジネス戦略・課題に基づいて活動を継続的に活動していますし、1年から1年半くらいの周期でサイト全体のリニューアルも行っています。
加えて、各プロダクトの概要資料(ホワイトペーパー) や営業資料も作っています。

カスタマーサクセス領域だと、導入いただいた KARTE Friends(弊社ではクライアントのことを KARTE Friends とお呼びしています。) のためのオンボーディングプログラムや、そこで使用される資料をグラフィックを用いてできるだけわかりやすく、かつ、楽しく学べることを重視して作っています。

プロダクトを知っていただく機会、理解・活用いただく機会、あらゆる接点にデザイン的なアプローチで貢献しています。

オフラインにおける活動も多いです。マーケティングやセールスの活動において、さまざまな規模や種類のイベントに参加する機会も多く、ブースの装飾やパンフレット、ノベルティの制作などを担当しています。また、プレイドがイベントを主催するケースもあり、イベントサイトやオフライン会場全体の設計・装飾、ノベルティや運営で使用する衣装やアイテムなど、さまざまなクリエイティブを担います。デザインはもちろん、体験をいかに良くして目的を達成するかをビジネスメンバーと一緒に考えるところから伴走しています。

多種多様な案件が同時に走っているので、それぞれの案件やそれらを担うメンバーたちが共通したブランド概念を持ち、適切にブラッシュアップしていくことも大切にしています。週に一度のデザイン組織全体の定例会議でプロダクトデザインを担当するデザイナーを含めた知見やアウトプットの共有機会も設けたり、プレイド全体にブランド概念を浸透させるため、ビジネス組織にブランドアセットを共有し、利用方法を伝える活動も行ったりしています。

──チームにはどういったメンバーが所属していますか

現在のメンバーは制作会社出身でデザイナーとしての経験が豊富な人が多いです。制作力が一定以上あることは前提に、その上で「グラフィックに強みを持つ」「マーケティング領域の知見が深い」「印刷物や紙に強い」など、それぞれ尖った部分を持っていると思います。

人数は6名と決して多くありませんが、異なるスキルセットのメンバーが集まることで、組織としての強みが生まれていると思っています。

デザイナーのプレゼンスを上げる、事業への意識

──コミュニケーションデザイン領域の仕事には、どのような意識や観点が必要だと考えていますか

僕はビジネスに強い興味や視点、素養を持っていることが、コミュニケーションデザインを担っていく上で大きな強みになると考えています。我々が主軸とする BtoB 事業は、商品・サービスの金額規模やその意思決定の複雑さ、携わる人の数など、多くの面で BtoC とは異なります。だからこそマーケティング、セールス、カスタマーサクセスといったそれぞれの領域や、ビジネス全体の構造や課題を意識することで、デザイナーは活躍の幅を大きく広げられると思っています。

たとえば、自分がデザインを担当するマーケティング施策はどういう人に向けて訴求しているのか、その施策が刺さった潜在顧客は次にどういう行動をしているか。こういったことを押さえることで自然と顧客解像度が上がりますし、「なにが必要か」を発想する余地がぐんと上がります。そうなると、より一層制作の楽しさを感じられるはずです。

自分も若い頃は制作のクオリティを高めることを特に重要視していましたし、表現する場で良いものがつくれた時に達成感がありましたが、いまでは、KARTE Friends それぞれの状況を深く知りながら表層以外の部分についても考えた上で制作することを楽しめるようになり、自分の介在価値も上がっている感覚が持てています。

──考えが変わった経緯を教えてください

「自分が制作したものは成果に繋がったのか」「価値があったのか」と自問することは受託制作の会社で働いているデザイナーのあるあるだと思っています。制作したものに対してどういう数値や反応が返ってきて、どこに改善ポイントがあるかを探り、成果につなげる活動や、そこに貢献したいという悩みを抱えているデザイナーは非常に多いのではないでしょうか。

僕自身、そういう感覚を持って制作会社から前職の事業会社に転職をしました。しかし、ただ事業会社に身を置くだけで思い描いていたような働き方ができるわけではありませんでした。自分が制作したものがその後どうだったのか、今後どうなっていくのかは、主にビジネスメンバーのなかで決定されていました。

新たなプロジェクトを開始する際など、機能の実現可能性や可否判断についてエンジニアが呼ばれることはあっても、デザイナーは呼ばれないことがほとんどです。事業会社という環境に身をおいても、自身が意思を持って行動しない限りは、制作会社にいる時と何も変わらないのだとその時気づきました。

さまざまな機会において非常に重要な「最初期」に絡めないことが多く、それがすごく悔しくて。そういう組織や役割の殻を破り、周囲から必要とされるデザイナーになりたいと思ったことがきっかけでしたね。

そこから、自分なりに”つくる”に留まらない関わり方ができるよう、顧客接点において何が重要かビジネスメンバーとの会話量を増やし、自分なりの意味付けをした上で制作の提案をするなど、事業視点を持つことを意識しながら働いていました。

こういった活動が実を結び、さまざまなチャンスが得られました。なかには新規事業の立ち上げに関わる相談もあり、制作に強みを持ちながらもビジネスの素養や意識があることは、デザイナーのプレゼンスを高め、大きな強みになると感じたんです。

デザインが重要視される環境で新しい挑戦を

──プレイドでコミュニケーションデザイナーとして働く上での面白みを聞かせてください

まず土台として、プレイドという会社がデザインを大切にしてきていると思っています。会社設立4人目の社員にデザイナーを採用するなど、初期から経営層がデザインの重要性を意識しています。重要性が意識されていることは、当たり前にデザイナーとしての働きやすさや価値の感じやすさにつながっていると感じています。

見た目やコミュニケーションの設計に対して重きを置いているのはもちろんですが、ただ数字が上がって事業が広がるだけではなく、「私たちらしく事業成長もしていきたい」という意識が全社的に強いように思います。

ビジネス側とデザイン側、他の部門同士もですが、部署や役割を相互に尊重しあっているのも特徴の一つですね。僕自身は、ビジネスメンバーからの相談について、都度ベストを尽くしてきたので、個人的にはこうした文化の醸成に貢献していると自負しています(笑) 。もちろんスケジュールや内容の調整をしてもらったことはありますが、基本的に「依頼された仕事はすべてやる」という姿勢を、僕は8年間貫き通してきました。

ビジネスメンバーにはデザイナーと共創したことがない、もしくは依頼が不慣れで進め方が分からない人が結構いるということも、これまでのキャリアで多く体感してきました。だからこそ、できるだけ相談しやすい環境や雰囲気を作ることを心がけ、「より良いものを世の中に出したい」という目的を共有しやすいように取り組んできました。ラフな相談も頻繁に飛び交っているので、風通しはいいですね。

相談の要件が曖昧なケースなど、デザイナーとしては「対応しづらい」と感じてしまうこともあるかと思いますが、そういった場合もビジネスメンバーに向き合い、少しづつやりたいことを言語化していきます。最近では、相談内容をクリエイティブブリーフに落とし込む作業をビジネスメンバーと一緒に進めたりしていますね。

スキル面のやりがいとしては、メンバーそれぞれが伸ばしたい分野に挑戦できるよう、仕事の割り振りに「スキルマトリックス」を活用しています。得意・不得意・やりたい・任せたいの4方向で、メンバーごとの仕事の傾向を見ることができるボードをチームでつくっています。たとえば印刷の仕事があるときに、印刷系が「得意」というメンバーにはお願いしやすいですし、「経験はないけどやってみたい」というメンバーに案件を任せることもあります。そういった活動の自由さもしっかり担保されている環境だと思います。

個々が強みを持ちつつ、相互刺激の好循環を最大化できるチームへ

──コミュニケーションデザインチームの今後の展望について聞かせてください

いまはマーケティングに関わる業務が全体の約8割を占めているのですが、今後はマーケティング以外の領域にも注力していきたいです。我々は潜在顧客・既存顧客のタッチポイントに対してコミットするチームなので、将来的には土台としてのブランディングと、それを活用したマーケティング・セールス・カスタマーサクセスのすべての領域にしっかり貢献したいと考えています。

これはまだ僕個人の構想ですが、コミュニケーションデザインの中にブランドチームやマーケティングチームと言った形で領域を分けることも考えています。デザイナーそれぞれが強みとする領域を持ちつつ、コミュニケーションデザインチームとして活動しているという状態が、今考えられる理想だと思っています。

──そのために、チームにどんな進化が必要でしょうか

今のチームでも、デザインのアウトプットやそこに至るまでのプロセスは非常に質の高いものを実現できている自負はあります。ただ、「自分のスキルセットを違う領域と混ぜて活かす」という点をもっと強く意識できる環境や雰囲気を一緒につくって、さらに強い組織にしていきたいです。「デザイナーだけで成果が出た」という事象は起こりません。だからこそ、関係各所とのコミュニケーションや関係構築をする必要があると思っています。そういう意味では、周囲を「巻き込む力」を組織としても個々のメンバーに求めていきたいです。

他の観点を挙げると、周りのデザイナーが作ったものを自分自身にインストールして、別の形でアウトプットできるなど、刺激を上手く受け取ることも重要です。もちろん、自身も周囲に影響を与えられるという意識も持ってもらいたいです。良いクリエイティブやアプローチはたくさんあるので、それを活用する意味でもデザイナー同士の相互刺激の好循環を最大化できるようにしていきたいと考えています。

──最後に、右田さん個人の目標についても聞かせてください

領域特化のデザイナーを業界に根付かせたいと思っています。例えばカスタマーサクセス領域に強みを持ったデザイナーです。プロダクトデザインやマーケティング、ブランドデザインなどにフォーカスするポジションはありますが、カスタマーサクセスにフォーカスしたデザイナーのポジションはまだ一般的ではないという認識でいます。
SaaS のプロダクトにおいて、カスタマーサクセス領域はプロダクトの成長に欠かすことのできない領域です。その領域でポジションを確立し、内外に認識される明確な人や領域を育てていきたいですね。

具体的な業務はサポートサイトやリリースノート、学びのコンテンツやテックタッチの施策など、プロダクトの周辺機能・それを補完する機能で、視点を変えるとプロダクトの一部という見方もできます。プロダクトそのものではないため、担当が曖昧になりがちで注力されにくいですが、今のプレイドにとっても非常に重要なポイントですし、取り組める余地や可能性がとても大きいと思っています。

デザイナー個人のキャリアという観点でも、良い知見や経験が得られる領域ではないでしょうか。たとえばサポートサイトは「守りの一手」と捉えられることも多いですが、もっと綿密に設計・構成することで、オンボーディング工数の削減や効果的な活用事例の創出、解約防止などに大きく貢献できる。「攻めの手段」にできるはずです。

最後に、プレイドのコミュニケーションデザインはプロダクトの成長、会社の規模に合わせて、柔軟に形を変えていけるようにしたいと思っています。得意領域を最大限生かす形に変化することもあるかもしれないですし、担当領域を分けたチームを構成するのも一つかもしれません。メンバーのパフォーマンスが最大化され、それが事業成長に寄与される組織作りをしたいと思ってます。

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