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「SaaSデザイナー」はNo1になれる余地がある──ベイジ枌谷力さん×プレイド鈴木 BtoBデザイナー対談 後編

成長を続けるSaaS市場で、デザイナーはどのように活躍できるのでしょうか。一線で活躍するデザイナーとプレイドのデザイナーの対談を通じて、SaaSデザイナーの可能性を探っていく企画をスタートします。

初回となる今回の記事では、聞き手をinquireのモリジュンヤさんに務めてもらい、デザイナーの鈴木が、BtoBに特化したWebサイトの制作や業務用システムのデザインなどを行うデザイン会社ベイジの代表・枌谷力さんと、BtoB領域のデザインのやりがいや魅力について語りました。

前半では、BtoB領域におけるデザイン、SaaSにおけるデザインのやりがいなどについてお話を伺いました。後半では、BtoB領域のデザインにマッチする人材像やデザイナーの教育について語った内容をお伝えします。

枌谷力さんプロフィール
株式会社ベイジ代表。新卒でNTTデータに入社。4年の企画営業経験の後、デザイナーに転身。制作会社を2社を経て、2007年にフリーランスのデザイナーとして独立。2010年に株式会社ベイジ設立。経営全般に関わりながら、クライアント企業のBtoBマーケティングや採用戦略の整理・立案、UXリサーチ、コンテンツ企画、情報設計、UIデザイン、ライティング、自社のマーケティングや広報、SNS運用、ブログ執筆など、デザイナー、マーケター、ライターの顔を持つ経営者として活動している。

SaaSの経験がデザイナーのキャリアを広げる

ーーSaaSのデザインは論理的にパーツの組み合わせを考えて進めていけるので、初心者でも取り組みやすいという話を前編で伺いました。その後のキャリアパスの広がりに関してはいかがですか?

枌谷:その後のキャリアパスとしても、いろいろな選択肢があると思います。まずはパーツを組み合わせながら理屈で作るデザインを学ぶ。その中で徐々にクリエイティビティを発揮させていく。といった具合にステップを踏みやすいですし、学べる分野も焦点を絞りやすく、かつ広がりもある。UIデザインだけでなく、UXデザインやサービスデザインはもちろん、ビジネス分野のデザインにキャリアを広げていくことだってできると思います。

鈴木:デザイン会社Basecampの代表で、クラシルを運営するdely株式会社のCXOの坪田さんがツイートで言及していたように、デザイナーがSaaSに関わるメリットは数多くあると思います。

鈴木:僕もKARTEでデザインをするようになって、UXデザイン、サービスデザイン、ビジネス理解、カスタマーサクセス、マーケティングなど、デザイン以外も含めて、様々な経験を積めてます。SaaSのデザインは入りやすく、かつ色々な経験ができるのでキャリアの選択肢は広がりそうですね。

枌谷:確実に広がりますよね。SaaSって結局はビジネス上の課題を解決するアプリケーションのデザインなんです。その思考プロセスは分野が違ってても応用可能で、SaaSの何らかの営業支援ツールをデザインした人が、EC のデザインを担当し、店頭端末のデザインを手掛け、最終的にOSのデザインをする、という未来だってありえると思います。

ーー他にも、SaaSデザインを経験したからこそ身につくスキルはありますか?

枌谷:まず、論理的な思考力は深まるはずです。SaaSに限らずなんですが、BtoB領域のデザインってある種の“思考訓練”だと思うんです。なぜなら、業務システムやSaaSのデザインは、デザインの中でも特に引き算を求められる分野で、そこに論理思考は不可欠なんです。例えばSaaSはPCのブラウザで利用される場面がほとんどで、画面が広い。だから色々なUIパーツを配置することができてしまいます。しかし、その機能を使っているターゲット数と利用頻度をロジカルに考えていくと、ムダな要素がどんどん省かれていきます。そうして極限までシンプルにしていくことによって、多くのユーザーにとって分かりやすいUIに仕上がっていくんです。

鈴木:変数が増えていく中で、最適解を見つけていく。深く思考しながら引き算していくことは難しいですが、それこそがSaaSのデザインのやりがいでもありますね。

あとは、実際にユーザーに使ってもらい、反応を見て改善していく面白さ。ユーザーのフィードバックを元に、どんどん改善できる。改善を進める中で、市場調査も必要になるので、ユーザーデータ以外のデータも見て、意思決定をする。アウトプットを作り込む能力以外も鍛えられると思います。

枌谷:ターゲットの行動を客観的に分析し、それに応じた展開をすることは、マーケティングの思考回路とほぼ同じですよね。私は、優秀なデザイナーさんは優秀なマーケターになれると思うんですが、特にSaaSのUIデザインに深く関わっている人は、マーケティング能力が鍛えられそう。

デザイナーが自走できる仕組みを整える

ーーSaaSのデザインを経験することで、デザイナー自身のキャリアパスも広がっていくことがわかりました。とはいえ、比較的新しい領域でもあり、組織による教育の体制なども必要になるかと思いますが、お二人はどうお考えですか?

鈴木:そうですね。プレイドは、すでに経験のあるデザイナーを採用し、3カ月のオンボーディングを経て独り立ちしてもらいます。オンボーディングではメンターを付けて、「どの案件に入るとワークできそうなのか」を本人と1on1しながら決めています。教育については、まだまだなので枌谷さんに教えていただきたいですね(笑)

枌谷:ベイジでは、常にスキルの平準化と明文化をやっています。SaaSや業務システムのデザイン領域ではまだできていませんが、BtoB領域のWebサイトでは「BtoBサイト・チェックリスト」なるものを作っています。ワイヤーフレームも用意していて、「このワイヤーフレームをベースにデザインを作ればそれなりに成果が出る」というのを明確にしています。こうすることで、経験が浅いデザイナーでも、基本の方が学べるわけです。このチェックリストの採用サイト版も今後は作る予定です。

ーー型を定義して、言語化していくと。

枌谷:そうです。守破離の“守”を会社側で提供するという感覚です。業務システムやSaaSのUIに関しても、未経験でも”守”を学べるものを何か用意しようと思っています。そういえばWebデザインに関しては、140ページの問題集形式のドリルも作ってて、このドリルを1〜2カ月やれば、最低限のものはできるようにしていたりします。

それ以外では、新たにジョインしたスタッフを確実に定着させるために、1年間のオンボーディングシートというものを作っています。縦軸で、期間・目標・業務内容・身につけるスキル・参考書籍・自習すべきことを記載。1on1のタイミングも1~2か月ごとに設定し、このシートを見ながらフィードバックやヒアリングをしていきます。

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とにかくここ数年は、OJTではなく、個人のスキルレベルに依存せずある程度の技術を習得できる仕組みの整備に力を入れています。実は会社を作った当初は、経験者の少数精鋭組織を目指していましたが、カルチャーフィットを重視する一方で高いスキルは求めない方針に変えたので、一つひとつの技術やプロセスを型化・言語化することが、組織的にも求められていたりします。でもこれによって、経験の浅いデザイナーが育ち、経験のあるデザイナーがスキルの棚卸しを行い、という中で組織が強くなっていく感覚があります。

鈴木:それだけ型ができているのはすごいですね。プレイドも参考にさせていただきます。プレイドはプロダクトがすでにあるので、デザインをゼロイチで作るよりも、改善していくケースの方が多いんです。そのため、プロダクトのデザインを改善するための「型」を誰もが再現できるように作ってブラッシュアップしているところです。もちろん、後から入ってきた人が改善提案をしてくれたりしたら、柔軟にアップデートしていくつもりです。

SaaSのデザインは“チャンス”が眠る領域

ーーここまでお話をお伺いしてきて、改めてどのような人がSaaSのデザイナーに向いているのでしょうか?

鈴木:ユーザビリティに対する関心が、一定数あることが大事ですね。SaaSはそもそも使ってもらうことが重要ですから、いかに使いやすいものを作れるかが求められるんです。ユーザビリティに関する情報をキャッチアップしているとか、フロントでHTMLを書きながらユーザービリティを考えているとか。そういう人は、最初の一歩として入りやすいと思います。

枌谷:ユーザーが使いやすいものや、触って気持ちのいいものをコツコツと作ることに喜びを感じる人が向いていそうですよね。その上で、「こういう人がSaaSデザインに来たらいいよ」というのは、今のジャンルで閉塞感があったり、自分の才能やスキルで悩んでいる人。柔道で開花しなかったけどラグビーで開花した、みたいなことって、デザインの世界にもあると思うのです。グラフィカルなデザインの世界で悶々と過ごしていた人が、ロジカルなデザインの世界に来たら才能が開花した、みたいな。デザインは続けたいけれども、「種目」を変えてみたい人にはオススメのジャンルといえますね。

ーー現在の領域に対して閉塞感のある人は飛び込んでみることで何かが変わるかもしれませんね。

枌谷:マーケティングと同じなんですが、みんながいるところで戦って勝つのは難しいんですよね。ビジネスではブルーオーシャンという言葉がよく使われますが、デザイナーのキャリアにおいても「ブルーオーシャンを探す」という考え方は活かせると思うのです。

グラフィックデザインやプロダクトデザインのように巨匠がいる世界に、今から立ち向かうのもすごいと思います。しかし、そういう道にあえて行かないという手もあります。その、あえて誰もいないところ、というのがSaaS。SaaS専門って明言しているUIデザイナーって今はいないですよね。

単に誰もやってないだけじゃなく、マーケット自体が伸びています。市場の広がりに対してなりたいデザイナーが比例していないから、そこに飛び込む人には、大きなチャンスがあると思いますよ。

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鈴木:しかも、ひとつのプロダクトで得たノウハウを横展開しやすい。たとえば会計管理のシステムを作ったら次は人事評価とか、見積もり査定とか。自分の中に UI 設計の最適解みたいなものがどんどん溜まっていくんです。レベルアップする場所として、SaaSや業務アプリケーションの世界は、最適なんだろうなと思います。

ーーありがとうございました。

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プレイドのデザインに対する取り組みや、注目しているテーマに対する有識者インタビューなどを綴っていきます。 https://plaid.co.jp/
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