近代の呪い
"近代がもたらしたもっとも確からしい果実が衣食住のゆたかさだといえば、なんだか身も蓋もないように思えないこともありませんけれど(中略)重要な事実なのです。しかし、この重大な達成の反面、人類はふたつの呪いを背負いこむことになりました"2013年発刊の本書は【単線的な近代史観を捉え直し、現代を再考する】一冊。
個人的には『逝きし世の面影』著者でもあり、名著『苦海浄土』の石牟礼道子の伴走者でもあった著者に興味があったので手にとりました。
さて、そんな本書は熊本大学の客員教授として、大学で2010年から2011年にかけて行った3回の近代をテーマにした講義『近代について』『西洋化としての近代』『フランス革命再考』をベースにして、新書としてまとめたもので。
【時代区分として安土桃山・江戸を近世、明治以降を『近代』とするのは適切か?】【近代に誕生した国民(国家)という概念そして"全員が政治に関心がある"のは本当に健全なのか?】とか。そもそも【近代化=行き過ぎた西洋化では?】とか【フランス革命は本当に近代社会を生み出したのか?】と様々な角度から近代(西洋化)以前、以降の社会についてを再考を促した上で、近代の【最も確かな功績は衣食住の豊かさ】と述べ。一方で、その結果【もたらされた二つの呪い】として世界的な資本主義経済に組み込まれて、民族『国家』にますます囚われてしまう『インターステイトシステム』人間中心の豊かさ至上主義による『世界の人工化(物質化)』による新たな自然と隔絶した生活空間の出現を指摘、これから必要なのは【生活の豊かさを捉え直し、経済成長絶対主義から自由になる道を模索すること】と、述べているわけですが。
まず、どちらかに単純に2極化した話するのではなく、また豊富な文献にあたった上での著者の『丁寧な言葉の選び方』はやはり素直に受け止めやすくて心地よく。その上で【声が大きい人が苦手なので】私自身は違和感もつも発言しにくい、猫も杓子も国民として『国家に誇りを持ち、政治や経済には当然に興味を持たなければいけない』といったナショナリズム的な風潮を、やんわりと代弁するかのように"本当に?"的に述べてくれているのは、共感と共に嬉しく感じました。
また、本書の前に読んだ『無名の人生』ー人生において自己実現、自己顕示欲に駆り立てられる事に警鐘を鳴らした一冊。でも、そうでしたが。80代になっても"わざわざ遠方から話を聞きに来てくれる"と謙虚に書いてましたが。単純な憧れとして。お金儲け(ビジネスモデル)にも、自己承認欲求(自己実現)もすっかり興味を失っているまさに無名な中年ですが。こんな【著者みたいな歳のとりかたをしたいものだ】と、こっそりと憧れたり。
単線的な進歩主義に違和感を感じ始めている人や、近代がもたらした功罪について考えている人にオススメ。
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