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悲しみよ こんにちは

"私はこの名前を低い声で、長いこと暗やみの中で繰返す。すると何かが私の内に湧きあがり、私はそれを、眼をつぶったままその名前で迎える。悲しみよ こんにちは。"1954年に著者18歳の時に発表された本書は世界的ベストセラーとして、映画化やサイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』にも影響を与えた青春小説の傑作。

個人的には、10代の時に読み終えた本を大人になってから読むと、自分は一体どんな感想を持つのだろうか?と興味を持って何十年かぶりに再読してみました。

さて、そんな本書はプレイボーイの父親レイモンに連れられて、コート・ダジュールの別荘で過ごす【17歳の少女、セシルの一夏の出来事】を青春期特有のイノセンスな残酷さで描いているのですが。

10代の時に【知名度と薄さ】を主な理由で読んだ時は年齢の近い【少女、そして父親に感情移入できなかった】印象があったのですが。中年になり、今度は父親の年齢に近くなってから読み直すと、思春期の少女の等身大の感情の揺れがストレートに、また【技巧的かつ詩的な言葉】で描かれていて、これは凄い作品だな。と評価が一転させられました。

また、以前読んだ時は【そもそも名前も著作も知らなかった】ので気づいてすらいなかったのですが。"エラン・ヴィタール(生の飛躍)"の哲学者にして、著者のペンネームの由来となった『失われた時を求めて』のプルーストにも影響を与えた【ベルクソンの名前がこんなにも頻出し】アンヌからの愛情と制約に対して、ベルクソン哲学の【人類発生原理としての自由】を引き合いに出して反発する描き方の巧みさにも驚かされ興奮させられました。

思春期の少女のイノセンスを描く物語が好きな人へ、また著者の早熟さにあらためて感心したい方にもオススメ。

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