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路地の子

"ここが彼らにとって結局は、もっとも居心地のよい場所だからである。たとえ人様から路地の者で屠畜を生業にしていると蔑まれようとも、怪我が絶えなくても、ここではみな同じ境遇だ。"2017年発刊の本書は、大阪南部の被差別部落"路地"で食肉業で伸し上がった父の姿を描いた文学ノンフィクション。

個人的には、本書で登場する地域で以前、営業として仕事をしていたこともあり、興味を持って手にとりました。

さて、そんな本書は中上健次に倣って被差別部落を路地と呼ぶ、まあ色々と問題発言も多い著者が【金さえあれば差別なんてされへんのや】と猪突猛進、一匹狼的な父が共産党や右翼、ヤクザと共闘して部落解放同盟からも利権をもきとりながら食肉卸として成り上がっていく姿を【匂いや色彩が浮き上がってくるような濃いタッチ】心情豊かに評伝として描いているわけですが。外部から訪れただけでは一見わからない同地の【普段学ぶことのない空白の歴史】を知る感覚があって、非常に興味深かった。

また、表紙には若かりし時の父親の後ろ姿の写真が使われているわけですが。後書きで著者自身が半生を振り返りながら書いているように【父への反発から和解が本書に結実したのかな?】と考えると、ノンフィクションとはまた違ったあたたかみが突き放したようや客観的な描写とは別に、余白からうっすらと透けて見えるような感覚もあって、良い読後感でした。

大阪南部、被差別部落をテーマにした本を探す人。また戦後からバブルといった昭和初期の混乱を追体験したい人にもオススメ。

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