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もしも願いがかなうなら

"わたしになにができるか考えましょう"は、問題が起きたときの母の口ぐせだった。そしてこの台詞は、きまって予想以上の効果をもたらした。"『パーンの竜騎士』や『歌う船』で知られる女性SF作家の著者が1998年に発刊した本書は、中世を舞台に【ちょっと変わった】ハートフルファンタジー。

個人的には、惑星パーンを舞台に糸状の胞子生物と戦う竜と騎士の物語にして、ヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞した『パーンの竜騎士』や宇宙船の身体を持つ少女の物語『歌う船』といった長編SFシリーズでこそ著者の存在を知っていましたが、この中編シリーズは知らなかった事。また【末弥純の美しいカバーイラストや挿絵】に惹かれて本書を手にとりました。

さて、本書はある村人たちに頼られる領主と妻、その家族たちを主役に、彼らが所属する公国に隣国が攻めてきた事で平和の日々が破られ、緊張感を増していくわけですが。特筆すべきは、だからといって戦記物として物語のカメラが俯瞰的に移動して領主が参加する【争いそのもの】を描写するわけでもなく、ましてや【隣国の内情】などを描写するわけでもなく、あくまで【残された妻と家族たち】に固定して限定的に語られ続ける事だ。

さながらそれは、作者も時代も違うけれど、映画化され大ヒットした『この世界の片隅に』に近い味わいで。戦争が起きていても、毅然として"わたしになにができるか考えましょう"と何度も周囲を鼓舞して日常の平和を守ろうとする妻、それに配慮する子ども達の姿は、近年の国内異世界ファンタジーものに多い【ハーレムや大量殺戮】といった価値観を是とする刺激と殺伐さ、ゲーム感覚に溢れた世界とは全く無縁の【堅実でささやかな物語】で、かえって読み手を選ぶ作品かもしれませんが、私は何だかはっとした新鮮さと、ほっと癒される読後感でした。

自立した女性を主人公にした日常系ハートフルファンタジーを探す誰か、ライトではなくも"ささやか"ノベルを探す誰かにオススメ。

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