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セバット・ソング

"凍った湖は静、温んだ水は動、遠いシベリアから飛来していく白鳥たちも、水の動くセバットに集い羽を休め、愛の唄を交わし、また飛び立っていく。"2019年発刊の本書は北海道に実在する児童自立支援施設を舞台に【取材した実際のエピソードをもとに】人間の可能性を信じて追いかけた一冊。

個人的には、こちらも関わらせていただいている【読書による文学賞】の推薦図書として手にとらせていただきました。

さて、そんな本書は学園長、そして学園長の娘、元寮生の兄妹の4人を語り手として、学園長からはあまり知られていない【施設の様子や抱えている厳しい現状】が、そして若い3人からは【退寮後の社会復帰した姿】がテーマ自体は重くも、音楽を軸にして爽やかに描かれているのですが。登場する子供たちの多くが幼少期に親との問題を抱えた結果として【後天的に歪さを抱えてしまっている】事に深く考えさせられます。

また、後半の【支配ではなく救済】と家族を犠牲にしつつも、あくまで理想的な施設運営を掲げる学園長に対して職員が不満をぶつける姿には、本書自体はフィクションとは言え、表裏というべきか。著者が取材を通じて感じた葛藤が代弁者としてセリフに込められているように感じました。

かっては救護院、感化院と呼ばれた児童自立支援施設について知りたい方、北海道を舞台にした作品を読みたい方にもオススメ。

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