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カフカの『城』他三篇

"僕の作業はといえば、時代に左右されないその作品の『たましい』をいかにつかむかーということに尽きた(中略)はたしてうまくつかまえられただろうか。目をつむり暗闇を見つめるばかりである。"2015年発刊の本書は、名作小説の世界そのままに各16ページでコミック化した魅力的な一冊。


個人的には、同じ著者の"村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』"がとても良かったので、本書についても手にとりました。

さて、そんな本書では今度はカフカの未完にして傑作長編小説『城』、夏目漱石の後期3部作の一つ『こころ』、盲点原理を創案したポーの『盗まれた手紙』、社会批評を盛り込んだユーモア短編、ドストエフスキーの『鰐』の4作品の中心的エッセンス(=たましい)が"水で描き、墨を落とす"著者独自のタッチで描き出されているわけですが。

まず、収録作全てが『既読かつ好きな作品』たちだったのですが。"村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』"と同じく、コミックという媒体に合わせるのではなく、小説は『小説』として、繊細かつ慎重に【そのまま再現されていて】安心して?各小説の読書記憶と照らし合わせつつ終始楽しませていただきました。(中でも短編の『鰐』はともかく、長編の『城』をよくぞ16ページで!と舌を巻いてしまった)

また、著者も『城』他、収録されているどの作品も【これは今こそ読まれるべき作品だ】という感想を持ったらしいですが。あらためてコミックとして各作品に接した私の感想もまさに同様で、例えば『城』に関しては永遠に彷徨い続ける主人公の姿に『コロナ禍で迷走する今』を、『鰐』に関しては賠償なしでは鰐の腹を割くことはできない!とのやりとりに『開催が危ぶまれるオリンピック』を勝手に重ねたりして、シニカルさを新たに感じたり。

収録されているカフカ、ドストエフスキー、夏目漱石、ポーといった作家好きな方はもちろん、小説、文学の可能性の一つとして、またインテリアとしてもオススメ。

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