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響きと怒り

"ぼくはナイフの先を彼女の咽喉もとにつきつけた あっという間にほんの一瞬ですんでしまうよ そしたらぼくは自分の咽喉をさすんだ"1929年発刊【南部の名門家族の没落】を4つの章、4の異なる視点。また洗練された意識の流れで描いた本書は米小説の最高傑作の中に据えられ、著者のノーベル文学賞受賞要因にもなった一冊。

個人的には、本書の表題がシェイクスピアのマクベスの独白『白痴が話す話』という句からとられているように、第1章の語り手である、産まれながらの白痴であるベンジーの自由過ぎる語りの難解さに何度か撃沈されて積ん読状態だったのですが、今度こそ!と最後まで読み終えてみました。

そんな本書は同じアメリカの作家とは言っても、並び称せられるヘミングウェイとはまた違った印象で、ジョイスやウルフといった作家たちの作品で文学手法"意識の流れ"を経験していない方だと【同じエピソードが脈絡がなく錯綜し『信頼できない語り手たち』により混乱しているようにも見える】本書の構造には、かなり難解な印象を受けるのではないかと、読み終えてもやはり思ってしまいますが。しかし、それをおいても著者の【4つの異なる視点の書き分け】はよほどテクニックに自信がなければ出来ない書き方だと思うので、まずはその文才の豊かさに圧倒されました。

一方で、4人の兄弟の中では第3章の語り手である実務的で口の悪い次男、ジェイソン四世はおそらく他の兄弟に比べると【酷い人物と見られがち】だと思うのですが。期待されて名門大学に進学するも自殺する長男、男から男と渡り歩く長女、30代にして言葉を話せない三男といった家族環境で一人で家計を支え続ける為に【自分の人生を犠牲にしてしまっている】姿には、個人的には同情してしまいました(いや本当に絶望せず頑張ってますよ。彼。)

『意識の流れ』『信頼できない語り手』といった文学手法で描かれた作品好きな方へ。また多くの作品に影響を与えた"ヨクナバトーファ・サーガ"最高傑作に興味ある方にもオススメ。

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