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女の一生

"それから、おそらく自分の頭のなかの考えに答えたのであろう、こう付け加えた。『世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね』"1883年発刊、トルストイの絶賛を浴びた本書は、人生の断片を活写した著者による孤独と悲観のフランス、レアリズム文学の傑作。

個人的には、何度も国内外で映画化されている機会があったので、必然的に何度か手にとろうとしたものの解説にある"夢が一つずつ破れていく女の一生"からヘビーな先入観があって機会を失っていたのですが。今回ようやく手にとりました。

さて、本書は修道院で教育を受けた清純(世間知らずとも言う)な貴族の娘を主人公に、結婚生活に入ってから、夫や息子に裏切られる10代から40代までを描いているのですが。まず印象的だったのは流石は『脂肪の塊』などの短編の名手、洗練され客観視された文書のおかげで【意外にも読みやすい事に驚かされました】(特に冒頭からの"これはわたしの太陽だ!わたしの夜明けだ!わたしの生活の始まりだ!"といった希望と不安を感じさせる描写は見事に尽きます)

一方で、新婚旅行から帰ってくると"するともう何もすることはないのだ。今日も、明日も、また永久に。"とつぶやく終始【受け身で成長しない裕福ニート】な主人公に関しては、現代人男性として日々【強くて活発な】女性像を目にする機会が多い事から?感情移入は出来ず、むしろ(女性関係はさておき)ときおり優しさも見せ(家計を立て直す為に)倹約する夫の方に【そんなに悪い人なのかなあ?】と感じて、モヤモヤとしてしまいました。(=普遍的、リアルに人物が描けているとも思います)

希望と絶望が交差する、ある一生を自分と重ねながら考えたい誰かに、またリアリズム文学としての描写の巧みさを堪能したい誰かにオススメ。

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