見出し画像

独り居の日記

"さあ始めよう、雨が降っている。(中略)何週間ぶりだろう、やっと一人になれた。"ほんとうの生活"がまた始まる。"1973年発刊の本書は小説の中で同性愛を明らかにし大学を追われ、本の出版も中止された著者が片田舎で自身の内面と向き合った1年間の日記、女性の自伝文学における分水嶺。

個人的には著書の小説や詩未読ですが。ヴァージニア・ウルフの『自分だけの部屋』を読んだ後に友人にすすめられて手にとりました。

さて、そんな本書はベルギーに生まれるも第一次世界大戦におけるドイツ軍侵攻によりアメリカに家族で亡命、成人してからはヴァージニア・ウルフたちと交流もありつつ、著述家として26歳で最初の詩集を発表し83歳で亡くなるまで創作意欲が衰えず、近年のフェミニズム及びジェンダー運動の高まりと共に再評価されている著書が、失意の底にあった時期に新しい出発を果たすため、58歳にして全く未知の土地ニューハンプシャーの片田舎ネルソンに古い老屋を買って過ごした1年間の日記なのですが。

まず、今でこそ世界的にもライフスタイルの選択はかなり許容されるようになっていますが。当時においては【中年を過ぎ、しかも同性愛をカミングアウトした独身女性】が、まったく未知の土地で一人暮らしを始める。というのは、いわゆる『世間常識』からかなり離れた行為だったと思うのですが。著者の自ら選んだ『自然に囲まれた孤独』の描写は美しく。また都市で常に時間に追われて擦り減っていくような生活をしている私にとっても魅力的でした。

とは言え、一方で特筆すべきなのはいわゆる【スローライフ賛美的なイメージ】や読者に『理想的な人物』に見られることを拒否するかのように日記の中には批評家への失望や失いつつある愛人への気持ちといった生々しい激しい感情も書かれていることで。この辺りのストレートな『権力への願望や自分の人生願望』への告白こそが本書が、当時における女性観のタブーを越えたと『女性の自伝文学における分水嶺』と評価される部分なんだろうな。と思いました。

中高年における再出発的を始める元気をもらいたい方や、フェミニズムやジェンダーに関心がある方にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?