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人間とは何か

"そうさ。人間即機械ー人間もまた非人格的な機関にすぎん。人間が何かってことは、すべてそのつくりと、そしてまた、遺伝性、生息地、交際関係等々、その上に齎される外的力の結果なんだな。"1906年発刊の本書は、人間中心主義の若者に人間機械論で疑問を投げかける刺激的な対話形式評論。

個人的には、晩年の人間不信のペシミズムが色濃くなってからの著者の作品は未読であったので興味をもって初めて手に取りました。

さて、そんな本書はソクラテスを中心に、数々の登場人物が言葉を交わし、思索を深めていく『プラトンの対話篇』のような先入観で読み始めたのですが。

おそらくは現在でも主流的な考えではないかと思われる人間の『自由意思、他人奉仕の高潔さ、創造性』を熱く語る青年に対して、終始"謙虚、誠実な心理探究者"を自称する老人が【予想外に妥協せずに論破】『人間は機械である』『行動原理は自己満足のみ』『生まれ持った気質が限界である』を繰り返しているのですが。

著者と言えばやはり『トム・ソーヤの冒険』『ハックルベリー・フィンの冒険』といったユーモア溢れるたくましい少年たちを思い浮かべてしまう私にとっては、その一見するとあまりに身も蓋もない【人間の栄光、称賛なんて所詮は借物、信じてるのはペテン師】【状況の強制力によって。国民はどんな宗教にも政治にも適応する。選民思想を唱えているのはバカ】といった言葉の数々に驚かされました(笑)

一方で、AIやロボットの登場でまさに表題のとおり『人間とは何か』の再定義が求められている現在、また怪しげな人間賛歌の自己啓発書やナショナリズムを煽る本が書店のベストセラーに並ぶ現在、本書は発刊当時は時代を遥かに先取り、ようやく【今こそ読まれるべき本ではないだろうか?】そんな感慨深い読後感がありました。

人間は(他の生き物と違う)【特別な存在】といった考え方に疑問を感じている方や、人間における遺伝と環境の話、心といった問題をクールに考えたい方にもオススメ。

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