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恐るべき子供たち

"恐るべき子供たちは、無秩序と、べとべと絡みつく感情の混沌を腹一杯につめこむのだった。"1929年発刊、多才さで知られた著者自身が挿絵も描いている本書は、疾走感溢れる豊かな文体で【大人になれなかった姉弟】を中心に偏愛心理と壊れた関係性の果てを演劇的に描いた、頭で考えるより、音楽の様に感じるべき傑作。

個人的には、詩人、小説家、劇作家、評論家としてだけでなく、画家、映画監督、脚本家としての活動も行い『芸術のデパート』とまで呼ばれた著名な著者による、萩尾望都により少女漫画化もされた本書について【名前は知ってはいたが実は未読だった】事から本書を手にとりました。

そんな本書は執筆の遠因にもなった、著者の年の離れた才能豊かな友人、ラディゲの早すぎる死に強いショックを受けて、阿片中毒者として入院中の『わずか17日間』で書き上げられたそうなのですが。

エリザベートとポールという近親相姦的、激しい愛情で結ばれた姉弟を中心に【主要な登場人物は僅か6名、『部屋』という限定空間を主に】若者たちが繰り広げる物語としては、あえての現代的なイメージだとリアリティ番組シリーズ『テラスハウス』?とか妄想しつつも(当たり前だが)全く違う激しさ、密度の濃い【純粋無垢さが暴走する破滅的な運命悲劇】で。文章として理解しようとすると一部つかめない所があったものの(翻訳者の苦労、工夫が感じられます)【スピード感溢れるポエティックな文章】が、とても心地よい読後感をもたらしてくれました。

一方で、もしかしたら?人を選ぶのというか。隅から隅まで照明が当たったような明快さ、起承転結。【理路整然と言葉として説明してくれる物語】が好きな方には、ちょっと消化不良、あるいは単純につまらないと捉えてられてしまうかもしれない。とも率直に感じましたが。私としては【結末のイメージから逆算して描かれた】純粋さと空想の世界を、それでも"体感して何かを感じて欲しい"とお節介に思ったり。

限定された状況、演劇的な構成の優れた作品を探す誰かへ。イメージの奔流の様な物語に身を任せたい誰かにオススメ。

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