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訂正可能性の哲学

"ぼくたちはつねに誤る。だからそれを正す。そしてまた誤る。その連鎖が生きるということであり、つくるということであり、責任を取るということだ"2023年発刊の本書は前作『観光客の哲学』そして『一般意志2.0』を引き継ぎニ部構成にて、横断し、遡行的、両儀的に思考を重ねている良書。

個人的には著者の本には共感を覚えることが多いことから本書についても手にとりました。

さて、そんな本書は『友』と『敵』の観念的な対立に支配された状況から、そのどちらにも分類できない"中途半端な"存在『観光客的な連帯』こそが脱出の鍵となり、その新たな連帯のモデルは『家族』に求められると主張した2017年に出版した『観光客の哲学』を引き継ぎ、プラトンやウィトゲンシュタイン、クリプキ、アーレントなとを横断しながら『家族』を閉ざされた関係ではなく【訂正可能性に支えられる持続可能な共同体】として再定義する第一部。

そして、同じく2011年に出版した『一般意志2.0』の主題を引き継ぎ、近代民主主義の出発とされるジャン=ジャック・ルソーの思想、彼が『社会契約論』で提起した『一般意志』まで遡って、現代世界が直面する民主主義の危機、新たに誕生した人工知能民主主義がルソーの理想を引き継ぎつつも【結局は実現できないので、現実の厄介さを引き受け構想されるしかない】と結ぶ二部で構成されているのですが。

全体的に、本来ならもっと複雑であろう内容や議論をあえて意図的に、わかりやすさを引き受けて書いてくれているので。とても読みやすくも【解釈のアクロバティックさ】に知的好奇心を刺激されました。

また、2010年の総括的な話としても、主に二部で語られるユヴァル・ノア・ハラリや、落合陽一、成田悠輔の著作や思想には『人類への過信』もしくは逆にデータ至上主義の『人間性の欠如』どちらにも危うさを感じていたので。個人的には【膝を打つような読後感】でした。

現代社会や民主主義を考える補助線に、また読書会の課題本としてオススメ。

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