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ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商

"山中商会には、普通の営利企業とは少し違った側面もあった。同社は、十九世紀末から約50年にわたって、アメリカで東アジア美術品が浸透する要としての役割を果たし、アメリカ人が東アジアを知る糸口を与えた"2011年発刊の本書は、戦前に世界的名声を誇るも忘れられた日本美術商の姿を明らかにした良書。

個人的には関西で美術史を人前で話す機会があるにも関わらず、この大阪から始まる山中商会の事は迂闊にも『全く知らなかった』ので、研究者に紹介され、慌てて手にとりました。

さて、そんな本書はニューヨーク在住の著者が、新聞記事でかってニューヨークに東洋美術を売る店を開き、やがてボストンやシカゴにも店を出し、ロックフェラーやフリーアなどにも美術品を売った大阪山中商会、そして山中定次郎の事を知り【有名な美術商だったのに、今は何故知られていないのか?】と、あまり残されていない資料や取材を重ねて、その活動を創業時からニューヨーク進出、繁栄から第二次大戦に巻き込まれての解体までを明らかにしているのですが。

まず、現在でも東アジア美術コレクションを持っている海外の美術館データベースには必ず名前が残り、明治から昭和初期にかけて世界を舞台に活躍し、かつ親しまれていた美術商、山中商会の存在について。本書でも登場するフェノロサや岡倉天心、林忠正といった名前は当然に知っていたにも関わらず、まるで【抜け落ちるかの様に知らなかったので】ジャポニスム以降、国宝クラスの【日本美術品や中国美術品が具体的にどのように欧米に売られていったか】を知ることが出来て、とても刺激的でした。

また美術史における功績紹介を除いても、本書を通じて、日米開戦後にアメリカにあった『敵国』の日本企業が【どういったプロセスを経て資産を凍結、接収され、無惨に解体していったのか】一方で『国家間の不幸な関係』にも関わらず日本人従業員達に対して、アメリカ側の政府、業界関係者ができる限り【誠実かつ敬意のある対応をしてくれた】ことを資料はもちろん、手紙のやりとりから知ることが出来、特に後者に関しては心暖まる気持ちになりました。

日本美術、美術史に関心ある人はもちろん、大阪や京都に縁ある方にもオススメ。

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