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くっすん大黒

"もう三日も飲んでいないのであって、実になんというかやれんよ。ホント。酒を飲ましやがらぬのだもの。ホイスキーやら焼酎やらでいいのだが。あきまへんの?あきまへんの?ほんまに?一杯だけ。あきまへんの?ええわい。飲ましていらんわい"2002年発刊の本書はリズムカルに切ない著者デビュー作にして、野間文芸新人賞、ドゥマゴ文学賞受賞作。

個人的に著者の本は映画化もされた『パンク侍、斬られて候』谷崎潤一郎賞受賞の『告白』と読んできましたが。デビュー作は未読だったので、今回ようやく手にとりました。

さて、そんな本書は働くのがふと嫌になって酒浸り。そりゃあ嫁は出ていくし、金はなくなる。となった自称・元紅顔の美少年、現大黒似の自堕落な男が、イライラして目に入った五寸ばかりの大黒を捨ててしまおうとウロつくうちに珍道中が始まる『くっすん大黒』うどん屋で傍若無人に振る舞う女子バイト仲間を殴りつけてガス(設備)が使えない部屋に逃げ込んでいた男が知らない男の遺灰を届ける旅(バイト)にでる『河原のアバラ』の2作が収録されているのですが。

最初に引用した『くっすん大黒』の冒頭からの大阪弁テキストで【印象や感想がはっきりわかれる】気もしますが。著者と同じく大阪でもミナミ、南部に愛着があり、またテキストを声に出す。といっても耽美的な朗読会や、子ども向けの読み聞かせというより、パンク的な声出しシャウトも企画する私にとっては【一人称カメラのミュージック・ビデオ(ただしアングラ)を眺めているような気持ちよさ】が本書にあって、ひたすらに最高でした。

と、自分で先に書いといて何ですが。とはいえ【大阪弁テキストの魅力だけでもなく】あと書きで三浦雅士も『梶井基次郎の檸檬』と比較しているように"血湧き肉躍る(ハーレム)展開や、伏線が緻密に張り巡らされ回収される。あるいは読んでいると、そうだ!夢はいつか叶う!→サロンに入ろう!(以下略)といった本のジャンルとはまた違う"【純文学の流れを著者が下敷きに書いている】のは明らかであり『内容がない』との指摘に関しては流石に的外れではないだろうか?と思うと同時に、古典文学好きの一人としては"やはり受賞は納得"と、その後の著者の活躍も含めて、デビュー作の本書の凄さを実感したり。

思わず声に出したくなりそうな、魅力的なテキスト、大阪弁好きな誰かへ。また古典文学好きにもオススメ。

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