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ゆたかな社会

"社会がゆたかになるにつれて、欲望を満足させる過程が同時に欲望をつくり出していく程度が次第に大きくなる(中略)それを『依存効果』と呼ぶのが便利であろう"1960年発刊"経済学の巨人"による本書は豊かさを手にしたアメリカ社会の変容、問題点を論じた古典的名著。

個人的には主宰する読書会の課題図書として手にとりました。

さて、そんな本書は第二次大戦後、一国で世界生産の半分を占めた『特需』によって高い経済成長率と低いインフレ率といった経済的豊かさ、繁栄を達成した20世紀アメリカでは【生産量さえ拡大すれば貧しさや不平等も解決できる】とした当時主流であった生存権的な経済学の考え方は『最早あてはまらない』事をスミス、リカード、マルサス、マルクスといった19世紀からの流れ、そして影響力のあったケインズを引き合いに出して前半で解説した上で、むしろ生産者側の広告やマーケティングによって【本来不要な物まで消費者が欲望がかき立てられている事(『依存効果』)】や、結果、生産量が拡大、富が拡大しても資源配分は民間に偏り、道路や教育といったハード、ソフト両方の【公共インフラへの投資が不十分、犠牲になっている】と、現在で言えば『ベーシックインカム』(最低限所得保障の一種。政府が全国民に対して 、決められた額を定期的に預金口座に支給するという政策)の提案もしているわけですが。

個人的には特に引用されるケインズの『一般理論』を先に読んでいたこともあり、世界恐慌や大戦といった【非常時の時代が終わった後の経済学】として繋がる感覚が。また既に懐かしい日本の高度成長期、バブルの時代には【我が国でも同じような議論は果たしてあったのだろうか】と考えてみたり。

また、感覚的な話ですが。現代においても相変わらず『経済成長さえすれば何とかなる』という本書でいうところの『ハムスターがぐるぐる回り続ける』物質的豊かさのみを求める価値観が【相変わらず主流であるように感じますが】予想以上に進化してきているAIのサポートなどでベーシックインカムが実現【人間な精神的な豊かさを求める方向に行かないかな?】とSF的な想像もしてみたり。

経済学の古典的名著、世界的ベストセラーの一冊として。ベーシックインカムを提案した先駆的一冊としてもオススメ。

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