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エドウィン・マルハウス

‪"この伝記の一番主なテーマを読者の皆さんに充分わかっていただけたかどうか、僕はいささか不安である。つまり、エドウィンは実にノーマルな子供であり、いわゆる天賦の才と呼ばれるものが決定的に欠けていた、ということを僕は言いたいのだ。"1972年発刊の本書は完璧主義者の著者による【子供によって書かれた子供の伝記】形式を借りたダークかつ濃密なリアリティ溢れる傑作長編。

個人的には、主宰する読書会ですすめられて手にとったのですが。これが予想外に面白かった。うん。伊坂幸太郎の"小説の面白さとおそろしさが詰まっている"という評がまさに当てはまる【どこまでも精密な描写で、どこまでか虚構かわからない】読み応えある一冊でした。

さて、そんな本書は10歳でアメリカ文学史上に残る傑作『まんが』を書き上げた後、11歳で夭折したエドウィンという少年を近所に住むジェフリーが【生後8日目に出会った瞬間から】抜群の記憶力で観察し続ける伝記文学(というパロディ)なのですが。大人が思いたがる『純真な存在としての子供』ではなく子供から見た【不穏でグロテスクな世界】がおそろしいほど透徹された視線の(かつ"信頼できない語り手"である)ジェフリーによって克明に語られていて、じわじわと作中世界に引きずり込まれます。

また加えて特徴的なのが、本書で登場する子供たちが【次々と不幸な目にあって途中退場していく】事で、エドウィンの初恋の相手ローズ・ドーン、悪友であったアーノルド・ハセルストロームといった【ジェフリーの明確な悪意も加わって】強烈な印象を残す人物たちが原因不明の火災や射殺といった形で、また本作の主人公?エドウィンは拳銃自殺、そして語り手のジェフリーも小学生以降、行方不明になっているのですが。【大人になると失われる世界を暗喩的に指し示している】のかな?と私は思ったりしました。

全ての小説好きへ、また森見登美彦の描く拗らせ大学生が好きな人や、ダークファンタジー好きにもオススメ。

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