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泥棒日記

"人はすべて行為をその成就にまで続行しなければならない。その出発点がなんであろうとも、その終極はすべて美しいはずだ。行為が醜いのは、それがまだ成就されていないからなのだ。"1949発刊の事実と虚構の自叙伝である本書は、三島由紀夫が熱烈なオマージュを書いたことでも知られる、裏返しの三位一体。【同性愛、盗み、裏切り】の悪徳で世界を転倒させた唯一無比の美学的一冊。

個人的には、本書はニーチェの『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』ではありませんが、戸惑うように読み始めてから、まるで裏返しの世界に連れていかれるような感覚で何とも引き込まれてしまったわけなのですが。

タイトルからルパン3世的な(ルパンの孫でも可)お洒落さを期待した人がいたら大きく裏切られてしまう【本当に生きる、存在する為に】泥棒をしながら書き続けた、文字通りの『泥棒作家』としての著者が【規範的な論理観を否定するわけではなく】ちゃんと受け止めた上で、切実に同性への愛情を告白しつつ、自身も含めた悪漢たちに【あたたかくも冷静な眼差しを注いでいる】本書。スキャンダラスさを狙って書かれておらず、むしろ聖性を付与して一貫して書いているのに圧倒され、揺さぶられる読後感でした。

またさらに驚かされるのは【ほとんど教育を受けてないにも関わらず】翻訳を経てもわかる圧倒的に溢れ出している、著者の【言葉の豊かさ、文学的・創作的な素養の高さ】物語として表面的に書かれているのはフラッシュバック的な同性愛と泥棒の繰り返しと、割とシンプルなのですが。それでも、付箋を貼り付ける指が最後まで止まりませんでした。

自身のマイノリティさを自覚しつつも言葉に出来ず、もやもやしている誰か、特異な『怪物作家』としての著者の人生に関心ある誰かにもオススメ。

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