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変身

"ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。"1915年発刊にしてあまりにも有名な書き出しの本書は、日常から異常へ、ひしひしと【闇の奥から強烈に迫ってくる不条理さ】が堪らない。

個人的には、読書会の課題本であったので久しぶりに再読したわけですが。最初に読んだ時は毒虫の不気味な描写や、後味の悪い救いがない結末から【終始にわたって暗い100ページ弱の短編小説】といった印象を受けた記憶があったのですが。

今回は冒頭に毒虫に変身しながらも、さほど【その異常事態には慌てず】に『さあ、ベッドのなかでぐずついていたって、もう役に立たんぞ』と、仕事へとにかく出かけようとする『社畜主人公』の姿に、毎朝、多少体調が悪くても出社しなければ!(役に立たねば!)と通勤列車に駆け込む自分を重ねて【ブラックユーモアを覚えて】失笑すらしてしまいました。

加えて、著者の本に関しては、死後に友人のマックス・ブロートの『積極的な裏切り』により編集、発刊された長編『審判』や『城』も別に読みましたが、比較すると生前に発刊された本書は、おなじく不条理な内容とは言え【ゆるぎない緊密さ、洗練された完成度】はやはり違いを感じさせ見事だとあらためて感じました。

【役に立つ、役に立たない】そんな些細な事に囚われてしまっている誰かへ、あるいは実存主義、サルトルやカミュにも影響を与えた【20世紀における重要作家として】代表作を探す誰かの最初の一冊にオススメ。

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