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リリアン

"これまでの真夜中のなかで、いちばん暗い(中略)だから俺たちは、いままででいちばん暗い真夜中のなかで、ひとつの大きな空洞のまわりを、いつまでもぐるぐる回っている"2021年発刊の本書は、大阪の街に住むジャズベーシストの男と飲み屋の女が奏でる珠玉の都市音楽小説。

個人的には大阪には強い思い入れがあることから、著者の『小説』は初めてでしたが、手にとってみました。

さて、そんな本書は大阪の繁華街、難波や梅田にも地下鉄、御堂筋線で行けるも"大阪の南の端にある場末の街"我孫子に住む、ジャズベーシストの男、何とか音楽だけで食えているも、その【どん詰まりな日常に"嫌気を覚えている"】男。と"スナックなのかガールズバーなのかショットバーなのかわからない"雑然とした飲み屋で働く女、和歌山の"海と国道しかない"所から普通に都市に憧れて【流されるようで海のような包容力も感じさせる】年上の女の二人が交わす即興曲のような『やわらかく、ゆるい』大阪弁の会話が続いていくのですが。

まず、大阪市内のキタ・ミナミ。難波、西九条、十三、北新地、万博公園といった自分にとっては懐かしいというより【今の日常風景が舞台になっている】こともあって、登場人物達の暮らす姿が映像として自然に浮かんでくるので。読後はまるで【地元舞台の映画を没入しながら見終わった様な充実感】がありました。

また、物語としては明確なクライマックスや劇的な展開があるわけではなく、また登場人物たちの会話も【なんとなく始まって、なんとなく終わる】やりとりが多いのですが。それでも、言葉のやりとりだけで完結せず、また文字としては書かれていなくも【余白から伝わってくる感情や関係性】を伝えるのに、そもそも漠然とした言葉の多い大阪弁がよく活きてる。と感心しました。(織田作之助をちょっと思い出しました)

大阪市内を舞台にした小説や、音楽小説が好きな人へ。また、コテコテというより、やわらかく優しい大阪弁を楽しみたい人へ。

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