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博物誌

"この木々も、だんだん私を家族の仲間に入れてくれるだろう(中略)私はもう、過ぎゆく雲をながめる術を知っている。じっと動かずにいることもできる。それから、口をつぐんでいることも、まあなんとか、やってのけられる。"1896年発刊の本書は生き物たちの生態を的確かつ独自視点で描いた短文集。

個人的には、著者の同じく代表作にして自伝的な『にんじん』が【児童文学のふりをした虐待物語】としてトラウマ化していたので、本書もおそるおそる手にとってみました。

さて、そんな本書は新聞や雑誌に発表してきた動物に関する短文を一本にまとめたもので、朝早くから狩人が清々しく出かける『物の姿の狩人』から始まり、帰らなければならないと村に戻る『猟期の終わり』に挟まれる形で、めんどり、おんどりといった庭に住んでいる鳥たち、そして家畜や野生の動物たちの姿や物語が文章の長さもバラバラに収録されているのですが。

まず、著者の観察をじっくりした後に、簡潔な『煮詰められた文体』に落とし込む。原文が持つ魅力を比喩の注釈も含めて【訳者が苦労してうまく再現している】様子が短文集の全体から伝わってきて。おかげで、あまりにも有名な『へび 長すぎる』『あり どれもこれも、3という数字に似ている』といったユニークな言葉たちに自然とうなずき、クスっと笑ってしまいました。

また、短文集という事で。どのページを自由に開いて読み始めても問題ないわけですが。本版では『ムーラン・ルージュ』などのポスター名作で知られるロートレックの挿絵と共に、短歌のような一文から2〜3ページほどの文章で【様々に息づき、色づく動物たちや自然の豊かさ】(時に人間の身勝手な残酷さ)がウィットやユーモアといったものでは単純にくくれない【印象的な言葉達として存在していて】ふと思いついた時に手にとり何度も読みたくなる魅力に溢れています。

ぱらぱらとめくって楽しめる本、動物たちを題材にした文章が好きな人にオススメ。

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