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しんがりの思想 ―反リーダーシップ論―

"もはや“引っ張ってゆく“タイプのリーダーではない。それは『右肩上がり』の時代にしか通用しないリーダー像だ。これに対して、ダウンサイジングの時代に求められるのは、いってみれば『しんがり』のマインドである。2015年発刊の本書は、哲学者、教育者として知られる著者による日本の『可能性』ではなく『限界』を見据えた上で、地域における新しい市民の在り方を考える。示唆に富んだ良書。

個人的には【今の時代を言葉として掴みたい】そんな気持ちになった時に、これまでも度々著者の本を読んでは勝手に代弁してくれているような感覚を覚えて頷かされてきたのですが。本書に関してもタイトル自体にズバリ、今の自分に刺さるものがあって迷わず手にとりました。

さて、そんな本書は政治や経済の場面でお題目のようにあげられる『リーダーシップ』論自体が実は"社会で直面しているほんとうの課題をむしろ押し隠すというふうにしか機能していないのではないか。"と疑問をまず呈した上で、社会の縮小にどもなう様々な課題を【経済成長】の名で【誤魔化し、無責任に先送りせず】ちゃんと向き合って考えてみたい。と、"いのちの世話すら"サービスとして外部化したことで起きている【市民の無能力化】また専門性が進み過ぎた事でおきている【専門家と市民のディスコミュニケーション】の結果として起きている『地域社会の空洞化』をオルテガ・イ・ガセットやエーリヒ・フロム、網野善彦、柳田國男など豊富かつ丁寧な引用を挟みながら説明し【誰かに任せてぶーたれる】でなく、一人一人が"しんがり"ー【全体へのケアや気遣い】といったフォロワーシップを備える事で市民性を成熟させるべき。と述べているわけですが。『まったくその通り』とNPO活動をしている自分としては読み進めながら、いつも通り豊富な知識はもちろんとして、実践や幅広い交流を感じさせる説得力ある言葉一つ一つに共感した読後感でした。

また一方で。それこそオルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』ではないが、いつもは穏やかな文書の著者が、本書では珍しく?終始憤りを感じさせて原発再稼働や(被災地の復興には悪影響の)東京オリンピックといった政治決定について。

公共が【みんなのもの】から【だれのものでもないなら】と一部が私物化している、他人を含む【社会】ではなく顔見知りだけを相手にする【世間】的判断になっている。と具体的に指摘しているのには驚きました。とはいえ、もちろん【安易な政権批判ではなく】次世代に向けた責任を感じた上での【あえての発言】だとわかるので、市民の1人として、その真摯な姿勢にあらためて胸を打たれるのですが。。

相変わらず右肩上がり思考、マッチョなリーダーシップを喧伝する方々に振り回されたり、疑問を覚えている誰かに。また『可能性』ではなく『限界』から逆算して日本の今を考えたい方にオススメ。

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