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五重塔

"御覧の通り、のっそり十兵衛と口惜い渾名をつけられて居る奴でござりまする、しかし御上人様、真実でござりまする、工事は下手ではござりませぬ"1892年発表の本書は五重塔建立に一身を捧げる職人の姿を描き、映像化もされた日本文学史上に燦然と輝く傑作小説。

個人的には最近、自社仏閣巡りにはまっていることから本書もタイトルに惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は日本の近代文学を代表する1人として、尾崎紅葉とともに『紅露時代』と呼ばれる時代を築いたことでも知られる著者の代表作の一つで、谷中感応寺に五重塔があらたに建立されることを知った、技量はあるも不器用な性格から“のっそり"とあだ名で呼ばれている大工の十兵衛が【なんとかその仕事をやり遂げたい】との熱望から、本来なら大工親方の源太が請け負う話になっていたにも関わらず、感応寺の上人に【自分に建てさせてくれるように】とお願いしにいくのですが。

まず、現在の言文一致体ではなくあくまで『文語体、古文のような文書』に最初は読みづらさを感じて戸惑うのですが。樋口一葉の『たけくらべ』同様、【声に出してみるように読んでいく】と、驚くほどリズミカルで心地よく、最後まですらすらと読み進めることが出来ました。

また本書の主人公はあくまで"のっそり"十兵衛なんですが。熱意のあまり周りを顧みないエゴイズムぶりが目立つ十兵衛と違って、ライバル役となる源太が【最初から最後まで】男気溢れる好人物なのも新鮮でした。

日本文学古典傑作として、また安藤忠雄の進路にも影響を与えた一冊としてもオススメ。

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