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きみの鳥はうたえる

"僕らはあのとき焼酎で乾杯した。あいつはプレーヤーがありませんので僕が唄います、とふざけて『アンド・ユア・バード・キャン・シング』を僕のために唄ってくれた。"1982年発刊の本書は故郷の函館市民の発信により絶版から"復活"。2018年に映画化もされた著者の本格的な文壇デビュー作にして第86回芥川賞候補作。


個人的には未読の作家だったのですが、2010年代になって次々に作品が映画化される中、気になって手にとりました。


さて、そんな本書では郊外の書店で働く『僕』と一緒に住む静雄、そして二人と関係を持つ佐知子の悲しい夏の終わりを描く表題作、そして精神科の医者のすすめでランニングをはじめる自律神経失調症の男『僕』が主人公の『草の響き』が収録されているわけですが。

最初に感じたのは、同時代の作家、村上春樹と特に男女の【肉体関係の淡白な描き方】が似てるなという印象がありましたが。一方で両作品共に二十代の若い登場人物たちが束縛から逃れて【何かを無軌道に探っている】姿は発表から40年近くたっても全く古さを感じず、むしろ今でも切実に迫って【生を問いかけてくる】ような迫力すら感じました。

また両作品ともに映像化したくなるようなシーン。例えば表題作だと『僕』と静雄が開店祝いの花籠を引き抜いてアパートで飾る流れや、佐和子の傘に『僕』と静雄の3人で通りを歩く場面など、読みながら【視覚的に美しい描写も散りばめられていて】映画化作品は未鑑賞ですが。どのように映像化されたのだろう?と、観てみたくなりました。

ほろ苦く普遍的な魅力を持つ『青春小説』好きな方や、札幌を舞台にした作品が好きな方へ。また映画好きな方にもオススメ。

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