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見えない都市

"『いつの日かこの表象をことごとく知るときには』と、フビライ汗はマルコに問うた、『朕はわが帝国をついに所有し得ることになるのだろうか?』1972年発刊の本書は"文学の魔術師"と呼ばれたイタリアの国民的作家による、どこにもない都市を描く枠物語にして、美しく詩的な幻想小説。

個人的には、地域おこしやまちづくりと、周りの人たちが熱く語り合っているのを眺めながら、積読状態になっていた本書を思い出し手にとりました。

さて、そんな本書は訪れた?世界中の都市について。ヴェネツィア生まれの商人であるマルコ・ポーロがフビライ汗に語るという『東方見聞録』のような形式で【9つの章にて55の都市が何度も繰り返し反復するかの様に紹介されていく】のですが。

好き嫌いが割とはっきりするというか、起承転結的な物語を求める人には正直、ちょっと戸惑う。というか、ちんぷんかんぷんではないかと思います。(『文体練習』レーモン・クノーの実験的な、前衛作品の影響があるので)

一方で、美しく醜く、メタファーが込められているようで、そうでもないような【風変わりで摩訶不思議な都市紹介は散文詩】章の合間に余韻と共に語られるマルコ・ポーロとフビライ汗の会話を(単純であっても)【都市論や現代社会への警鐘、哲学的な対話集】と捉えるとわかりやすいような、そうでないような?(うーん。紹介が難しい)

あと、イタリア人作家が描くフビライ汗(日本人的には蒙古襲来でおなじみ)が東洋的なエキゾチックさではなく、ギリシャの哲学者の様な思索的な人物に描かれているのも、ちょっと意外で印象に残りました。

都市をテーマにした『千夜一夜』の様な作品を探す誰かや実験小説好きな誰かへ。また美しく詩的な言葉に触れたい人にもオススメです。

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