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不思議な少年

"すべては夢なんだ。神も、人間も、世界も(中略)ただあるものは空虚な空間、そして君だけなんだよ"1916年発表の本書は著者の晩年期、何度も改稿された暗鬱たるペシミズムに彩られた小説。

個人的には『トム・ソーヤの冒険』『バックルベリ・フィンの冒険』といった初期作品は読んではいたものの、1890年代以後の晩年作は未読だったので手にとりました。

さて、そんな本書は1590年、オーストリアの田舎村を舞台に、自らを『サタン』と名乗る美少年が物語の語り手であるテオドール他の少年たちの前にあらわれた事で、不思議な力と巧みな語り口で次第に【村全体が混乱へと導かれていく】のですが。

著者にとっては『未完の作品』で、本書も死後に遺産管理人のペインによって手が加えられて出版されたらしいのですが。それでも『善悪外の存在』である『サタン』がテオドール少年に【良かれと頼まれたこと】を実現する度に、人間の愚かさで【悲劇が連鎖的に起きていく】本書。最後までとても面白かった。

また、2022年現在。まさかの戦争が実際に起きてしまった中、作中の"政治家どもが安価な嘘をでっち上げるだけさ。まず被侵略国の悪宣伝をやる。国民は国民でうしろめたさがあるせいか、その気休めに、それらの嘘をよろこんで迎えるのだ"といったラストあたりに出てくる言葉は、まるで【今を予見しているかのようで】驚かされました。

アメリカ文学の重要作家の晩年作として、また『人間存在について』悲劇的に思索された作品好きな方にもオススメ。

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