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覗くひと

"だれもそれを聞かなかったようだった。汽笛はふたたび鋭く長い音を発し、それから続けて鼓膜がやぶれそうなー対象物がなにもなく、その音はむなしくひろがるだけだー激しさで、短い音を三度発した。"1955年発表の本書はヌーヴォ・ロマンの傑作、あまりにも視覚的、映像的な不朽の一冊。

個人的には後期ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督の1人。と映画の方から先に名前を知りつつ、本に関しては全く未読だったので今回ようやく手にとってみました。

さて、そんな本書は最初の作品『消しゴム』を発表してセンセーショナルな話題をまき、サルトルによって(伝統的な小説手法を拒否した)『ヌーヴォーロマン(新しい小説)』と評された著者の二作目で。

閉鎖的な離島を舞台に三章構造で、一章では島にやってきた行商人マチアス【紐を集める変わった癖がある】語り手が時間に追われながら、急いで?腕時計を販売しようとする姿が。続く(空白を挟んだ)二章では【古い知り合いを自称する男】と、その家族たちと蟹を食べたりしているしてるうちに帰りの船を逃すまでが。そして三章になって、ようやく起きた事態が【朧げながらも読者に開示される】わけですが。

結論から先に言うと。面白かった!『カフカ的(本当はちょっと違いますが)』+『ミステリ』というべきか。全く噛み合わず【必然的に緊張感ある登場人物たちの会話】に例えるなら荒木飛呂彦のジョジョの様な【ドドドド、とかゴゴゴといった心理戦の効果音を勝手につけながら】一方で『閉鎖的な離島で起きた事件』という、あまりにミステリ的に【ど真ん中な設定】。そして混然としつつも次第に【明らかに?なっていく展開】が好物すぎて楽しかった。

また、これも私なりの解釈ですが。著者のやりたかったのは【神である作者によって設定された世界の人物たちが、与えられた役割、条理に沿って発言し、行動する】今でも数多く書かれている直線的、パターンに縛られた『小説の不自然さ』に対し、『既に存在する世界』を【極めて映画的。複数の映像や音を多重レイヤー化して同時に描く】事で『新しい小説の描き方』に挑んでいる気がしたのですが。浮かぶ映像が先にあって【テキストが後から追いかけてくる】独特な読み心地。まったく古さを感じなくて刺激的でした。

ヌーヴォ・ロマンの傑作としてはもちろん、視覚的、実験映像的な作品が好きな方へ。また『意識の流れ』小説の可能性の一つとしてもオススメ。

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