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京都の平熱

"京都が『古都』と言うのは大嘘だ。たしかに古い物は残っている。寂れて、しっとりと。けれど、京都人ほどの『きわもの好き』『新もん好き』はめずらしい"2007年発刊の本書は、市バス206番に乗った哲学者が生活者目線で描き出す『平熱の京都案内』的一冊。

個人的には縁あって学生時代を過ごしながらも、それほど『実は詳しくない』京都について、もっと知りたい。と本書を手にとりました。

さて、そんな本書は京都市芸の学長もつとめた著名哲学者の著者が"歴史や伝統などろくに身についていないけれど"確かに生まれ育った京都について。"ではいざ出発。『きょうと206番』、京都駅から東回りで。"と市バス206番沿線に沿った形で【東から北、西へ南へと円状に一周する形で】いつの時代も生息してきた『三奇人』や今はもう閉店してしまったお店でのエピソードなど【観光ガイドでは紹介されず、京都検定には役に立たない】生活者としての京都を案内してくれているわけですが。

著者の本については、その眼差しや語り口が好きで、これまでにも何冊も手にとってきましたが、やはり数ある『京都案内本』とは全く違う、一方で濃すぎる部分はあえて語らずに『上澄み』の京都の魅力について【絶妙なバランス】で描いている本書。読み進めながら、まるでバスに『著者と一緒に乗っているような』追体験感覚で楽しめて、読み進めながら始終ワクワクさせていただきました。

また、とは言え。全面的に京都礼賛ばかりをするだけでなく、いわゆる『虚都』や京都らしさなどを真面目に語り合っている現在の京都は奢りがあったり、本来の魅力である【重層的な多様性を自ら失いつつあるのではないか?】といった指摘をしっかりしてくれているのも流石といった所で、誠実さを感じ嬉しかったです。

京都好きな人はもちろん、地域の魅力について。あらためて考えたい人にもオススメ。

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