【展示解説】TOMOO NISHIDATE “Surface to Surface”
今年の5月末以降、無謀にも3つの企画展を立て続けに開催し、作家の皆さん、また、弊社スタッフと駆け抜けてきた2ヶ月間が、ようやく一旦、終わりに差し掛かろうとしています。一部、周囲からは、半ばヤケクソになったかと思われていたようですが(苦笑)、個人的には、新型コロナウイルス下での展示3部作と位置づけて開催しておりました。その最中、経済以前に一気に感染者数が全国的にV字回復してしまったのは、正直なところかなり予想外でしたが、この短期間に幅広いジャンルの企画展を、まずは無事、開催できたことに、ひとまずホッとしています。
さて、改めて振り返ると最初の企画展、古谷萌さんの「vermilion」は、グラフィックデザイン及びイラストレーションによる展示。次のRhoikos&Theodros(ロイコスアンドテオドロス)による「“(PLACE)” Theme 001:Jens」は、ファッションデザインとプロダクトデザイン両視点からの企画展。そして最後の、コラージュアーティスト、西館朋央さんによる「Surface to Surface」は、クラフト色のやや強い、彫刻・立体作品が中心の展示でした。
本展「Surface to Surface」について
西舘朋央さんは、1978年生まれ。大学で経済を学んだ後、音楽制作会社に勤務し、作曲や音響効果の仕事に携わり、退社後、イギリス旅行の際に、路上で拾い集めたゴミのコラージュ日記を作り始めました。以降、紙や木材、廃材などを用いた作品で展覧会を行うほか、雑誌や広告などのグラフィック、展示会の空間演出、店舗の壁面オブジェやディスプレイなど、様々な分野で活動しています。
工場や、工房で生じる端材や未完品の残骸など、使用が済んで捨てられたモノを集め、モノに残る痕跡を拾いあげ組み合わせていく。本展「Surface to Surface」では、西館さんが近年制作している、木材を用いた彫刻・立体作品を、多数展示しました。
また、新しい試みとして、展示会場隣のスペースであるCIRCLEを、普段は、千葉で制作をしている西館さんの移動アトリエとし、会期中の6日間に渡って公開制作を行うことで、また新たな作品が産まれ、都度、展示へと加えられていきました。
コラージュとしての彫刻
西館さんとは、かれこれ10年以上の付き合いで、作品は初期からずっと見ていたものの、今回、彼から聞いた「コラージュを制作するのは、音楽で曲を作ることと似ている」という言葉が、特に強く印象に残りました。恥ずかしながら、ようやく彼の作品が腑に落ちたと言うべきか、その一言で、彼の作品制作の意図や作業過程を、ありありと想像できるようになった気がします。
先んじてクライアント向けの作品制作で用いられていた手法ではありますが、2015年に府中市美術館で開催された「公開制作 タイポグラフィの実験室」を契機に、彼の作品は、従来の平面から木製の立体作品へと次第に発展していきます。そもそも平面ではあるものの、素材を組み合わせ、重ね合わせていく、コラージュする行為そのものが立体的だと捉えている、との話も聞くことができ、用いる素材が木に変わったことで、自然と彫刻作品へ変容していった過程も理解できました。
その後、2019年に、千葉にある彼のアトリエ「NEW FOLKS studio&gallery」で開催された展示「Surface to Surface」の様子を、SNSで一目見た際に「観たい!欲しい!!」と思い、すぐに連絡を取ってアトリエを訪れ、壁面作品を一点購入。そして、その場で企画展の開催をお願いし、ようやく一年後、本展の実現と相成りました。
引き算で際立った造形
以前は、木片を積み重ね、さらにその上に紙を貼るなど、足し算を続けていた彼の作品は、一方で、週一日程度、家具メーカーに弟子入りして修行を続けることで、彼自身の木工技術も上がり、一転、単色で塗り上げ、造形のみを際立たせた作品へと変化していました。それは、言わば引き算の作業。
一応、デザインを背景としている僕が、彼の作品に強く反応したのは、恐らくこの引き算が原因だろう、と感じています。出発点がコラージュだからこそ生まれた個性的な造形は、他の視覚的要素が色によって差し引かれたことで、純粋に強調された結果、自然とかたちに焦点が合い、より新鮮なものとして映りました。
足し算への回帰
そして本展では、そこからさらに一歩進み、造形を引き立てるため、色を塗ることで抑制された表現から、また少しずつ足し算へと回帰している作品も多く見受けられました。無垢材や集成材そのままの素材感を活かした作品は、特に塗装された木部と組み合わされることによって、対照的な質感が、また新たな表情を生み出しています。
最終的に60点以上の作品が展示された本展では、幸いにも、その内の多くがお客さまの元へ旅立っていく結果となりました。また、この一連の展示では、ECサイトで展示作品を販売してみたり、EC店番やアーティストのオンライン在廊、そしてオンラインパーティーを開催してみたり、インスタライブでギャラリーツアーやトークを配信したり、無人での展示を行ったり、スペース外に作品を展示してみたり、アーティストの公開制作を行ったり、さらには、このnoteに展示解説を書いてみたりと、新しい展示様式を探すため、様々な試みを行ってきました。加えて本展では、アーカイブとして展示風景の3Dウォークスルー映像を、新たにARCHI HATCHさんに撮影して頂きました。ぜひ、こちらもご覧頂ければ幸いです。
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