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『ヴェーロチカ/六号室』チェーホフ『雪の宿り』神西清 @中川多理 Favorite Journalポール・エリュアール広場 2番地/(3月) 

 中川多理 Favorite Journalポール・エリュアール広場 2番地に、そろそろ川野芽生の『人形歌集・羽あるいは骨』の第二刷が入ってくるらしいので、覗きにでかけた。中川多理の生写真がついているらしい、歌集に使われた人形の…。ちょっと楽しみだったがまだ入っていなかった。

代わりに、『ヴェーロチカ/六号室』チェーホフ◎浦雅春訳と『雪の宿り』神西清を手に入れた。

此のパッサージュで教わった『二十六人の男』ゴーリキー、そして『サハリン島』チェーホフの延長にある二冊のような気がする。

 チェーホフの『六号室』は、全集で読んでいた。チェーホフでも相当に好きな部類に入る。閉塞したパン工場とか、収容所とか、引き籠り的な部屋とか…自分は閉所恐怖症なのに…そうしたところでの物語がたまらない。『ヴェーロチカ/六号室』は文庫なのでもちあるいて短編を一つずつ読んでいる。愉しい。チェーホフの閉所ものは、ドストエフスキーの『地下室』とはトーンが違って、クリアに面白い。この時代で好きなのは、カフカとチェーホフなんだろうな。(もうちょっと自分の気持ちを突き詰めてみたい)

 映画の『ドライブマイカー』の中に出てくる、チェーホフ『ワーニャ伯父さん』と同じ浦雅春。その感想は

で、少し書いてみたけれど、浦雅春の解説は次の読書の糧になる。
『ヴェーロチカ/六号室』に集められた短編は、チェーホフが決死でサハリン島旅行へ向かう——

その動機が伺えるものだとあって、その分析には大まか首肯けるが、どうせ『六号室』の解説を読むなら、神西清の『チェーホフ序説』を読むのがおすすめだ。(青空文庫で読める)神西清の解説を解説する力量はほとほと持ち合わせていないが…解説を読んで、神西の小説読み/翻訳の立ち位置からの視点をもって小説を読むと…諧謔的なところがあるチェーホフの文章表裏の絡み合の機微を感じることができるようになる。この読み方は、カフカの手紙、小説にもぴったりあてはまる。(カフカを絶望名人だと読むのがなぜまずいかが分かる。言っているままが本音じゃない。)

『雪の宿り』は、チェーホフ全集を手がけた、そして評論家でもある神西清の小説で、10篇の小説が収められている。
 『雪の宿り』から読み出したのは、そこに連歌師がでてくるからという単純な理由。これは今、やっている読書のもう一つのブロック、『雨月物語』『撰集抄』から始まる連歌のもろもろを読んでいることにも関係している。
翻訳や評論を…しかも両方とも素晴らしい仕事…している上でのこの素晴らしい筆致。

ところが或る日のこと、ふとその禅僧が心づきますと、硯箱の蓋に上絵の短冊が入れてありまして、それには、

さめやらぬ夢とぞ思ふ憂きひとの烟となりしその夕べより 

と、哀れな歌がしたためてあつたと申すことでございます。

歌を一首さし込む見事さは、『雨月物語』で西行の歌のやりとりに、自作の歌を入れてしめる創作をすることにも似て、つくづくと詠嘆のため息をつく。
このセレクション集には、大海人皇子を題材にした2編もあり、読書の楽しみは続くのである。

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