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額縁

背の高い草が風に揺れている荒川の河川敷、それを超えた先にはマンションやアパートが立ち並んでいる。好きな景色。大きく揺れる電車の窓から見える景色。


隣に座ってるけど、美術館で隣同士に飾られた絵のように、それぞれにそれぞれの額縁があって、互いにそれを共有することはできなくて、同じ方向を見ているようでも違う世界を見ているみたい、
そう言ったのは君だったっけ。


新幹線の小さな窓から見える田園風景と、突如として現れる廃れたラブホテル、元恋人と行った駐車場の広いセカンドストリート、ここから見ると意外と小さかったことがわかる卸売場。小さな額縁が映し出す世界は速いスピードを保ちながら次々と変わっていく。
ターミナル駅で乗り換えをする。ボタン式の開閉ドア、4両編成の電車。さらに、すこし、北へ。
降りた駅はもう見慣れてしまっていて新鮮さも高揚もないけれど、もし何も知らずにここに降りたのならきっとこの駅に、この街にシャッターを切りたくなるのだろうなと、もう得ることのできない感情の形を探ってみる。


3年前、内見に行ったあのアパートの最寄駅はどこだったっけ。不動産屋の軽自動車の窓から見たあの世界がわたしの中で滲んでいく。
ドクターマーチン"もどき"を履いていたあの日、「マーチン、好きなんですか?」と声をかけてくれた不動産屋のお兄さん。細くさらさらとした、思わず触れてしまいそうな髪に繊細な指、左右対称な二重。あの時のマーチン"もどき"は去年捨てた。


キャンパス内のバス乗り場で交通指導員のおじちゃんが「お疲れさま」と微笑んでくれたこと、おばあちゃんが無事に横断歩道を渡り切れるよう付き添ってあげる警備員を見たこと、バスで前の席に座っている彼のネイルがとても綺麗だったこと。互いに会話の終わりを掴めないままフリーズしたあの数秒、「アンタの文章好き」そう言った彼女の少し照れた顔。私の額縁から見えたもの。


日々の様々な額縁とそこからの景色、日々書き重ねられる記憶の下書き。


「記憶の下書き?」

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