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多元的虚数連続体(と予想される)Uの悲劇

 私Uは、いや私達U’sというべきか。いつも距離感というものを測りかねていた。それは、自動車教習所の仮免許の試験、学友たちのパーソナルスペースへの理解、真剣試合での必中となる間合い、点Pに至るたかし君への追いつくまでの丁度いいスピード。少ししかないようで上げるときりがない。思えば幼年期から箸で里芋をうまくつかめず母によく怒られていたし、あまりにも馴れ馴れしい態度で色んな人に甘えて、連れ攫われる事態にもなったりした。

 それもこれも自分が、人とは違って、少しずれていた事が原因だったことに気づいたのは、高校時代のUが虚数について学んだからであった。その瞬間私達U’sは一本の木で(大まかな理解)無数に枝分かれするすべての私は一つ、かつ別々のものということに(大胆な解釈だが)気づいてしまったのだ。ただ悲しいことに、気づいた原点(というべき)Uは発狂し、プスンと音を立てて事切れたのだった、Uはあまりにも勉強ができなさすぎた。根本がなくなった私達U'sは、バラバラの個体として瞬間を停滞、または無限の瞬間を続ける悲劇の漂流者達となったのだった。

 そんなことがついこの瞬間起きた話であり、たどり着くことのできない少し前、または後の話である。そして、このあと何が起きるかは残念なことに予想がついていた。

 「ここか?ようやくついた気がするな」

 さっそく、予想通りろくでもないUが現れる。コイツはUを(※とてもでかい数字なるべく知覚したくない)回殺しながら戻ってきた、(わかりやすくいうと)タイムトラベラーだ。原理は単純で同じ瞬間に存在できない私を弾く、つまり殺すということを繰り返すとここへ辿り着ける。やろうと思ってやるあたり、相当イカれているUだ。

「ふうん、瞬殺できないってことはお前が極限値ってことか」
「私は殺されたのか?」
「ああ、もうやっている」

 すでに傍らには無数のUが倒れていた。

【続く】

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