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【不動産鑑定士】不動産鑑定評価基準(平成26年5月1日一部改正)

不動産鑑定評価基準
平成14年7月3日全部改正
平成19年4月2日一部改正
平成21年8月28日一部改正
平成26年5月1日一部改正
国土交通省

目次
総論
第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察
 第1節 不動産とその価格
 第2節 不動産とその価格の特徴
 第3節 不動産の鑑定評価
 第4節 不動産鑑定士の責務
第2章 不動産の種別及び類型
 第1節 不動産の種別
 第2節 不動産の類型
第3章 不動産の価格を形成する要因
 第1節 一般的要因
 第2節 地域要因
 第3節 個別的要因
第4章 不動産の価格に関する諸原則
第5章 鑑定評価の基本的事項
 第1節 対象不動産の確定
 第2節 価格時点の確定
 第3節 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定
第6章 地域分析及び個別分析
 第1節 地域分析
 第2節 個別分析
第7章 鑑定評価の方式
 第1節 価格を求める鑑定評価の手法
 第2節 賃料を求める鑑定評価の手法
第8章 鑑定評価の手順
 第1節 鑑定評価の基本的事項の確定
 第2節 依頼者、提出先等及び利害関係等の確認
 第3節 処理計画の策定
 第4節 対象不動産の確認
 第5節 資料の収集及び整理
 第6節 資料の検討及び価格形成要因の分析
 第7節 鑑定評価の手法の適用
 第8節 試算価格又は試算賃料の調整
 第9節 鑑定評価額の決定
 第10節 鑑定評価報告書の作成
第9章 鑑定評価報告書
 第1節 鑑定評価報告書の作成指針
 第2節 記載事項
 第3節 附属資料
各論
第1章 価格に関する鑑定評価
 第1節 土地
 第2節 建物及びその敷地
 第3節 建物
 第4節 特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法
第2章 賃料に関する鑑定評価
 第1節 宅地
 第2節 建物及びその敷地
第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価
 第1節 証券化対象不動産の鑑定評価の基本的姿勢
 第2節 証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件
 第3節 処理計画の策定
 第4節 証券化対象不動産の個別的要因の調査等
 第5節 DCF法の適用等
附則

総論

第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察

 不動産の鑑定評価とはどのようなことであるか、それは何故に必要であるか、われわれの社会においてそれはどのような役割を果たすものであるか、そしてこの役割の具体的な担当者である不動産鑑定士及び不動産鑑定士補(以下「不動産鑑定士」という。)に対して要請されるものは何であるか、不動産鑑定士は、まず、これらについて十分に理解し、体得するところがなければならない。

第1節 不動産とその価格

 不動産は、通常、土地とその定着物をいう。土地はその持つ有用性の故にすべての国民の生活と活動とに欠くことのできない基盤である。そして、この土地を我々人間が各般の目的のためにどのように利用しているかという土地と人間との関係は、不動産のあり方、すなわち、不動産がどのように構成され、どのように貢献しているかということに具体的に現れる。
 この不動産のあり方は、自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定されるとともに経済価値の本質を決定づけている。一方、この不動産のあり方は、その不動産の経済価値を具体的に表している価格を選択の主要な指標として決定されている。
 不動産の価格は、一般に、
(1)その不動産に対してわれわれが認める効用
(2)その不動産の相対的稀少性
(3)その不動産に対する有効需要
の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。そして、この不動産の経済価値は、基本的にはこれら三者を動かす自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定される。不動産の価格とこれらの要因との関係は、不動産の価格が、これらの要因の影響の下にあると同時に選択指標としてこれらの要因に影響を与えるという二面性を持つものである。

第2節 不動産とその価格の特徴

 不動産が国民の生活と活動に組み込まれどのように貢献しているかは具体的な価格として現れるものであるが、土地は他の一般の諸財と異なって次のような特性を持っている。
(1)自然的特性として、地理的位置の固定性、不動性(非移動性)、永続性(不変性)、不増性、個別性(非同質性、非代替性)等を有し、固定的であって硬直的である。
(2)人文的特性として、用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)、併合及び分割の可能性、社会的及び経済的位置の可変性等を有し、可変的であって伸縮的である。
 不動産は、この土地の持つ諸特性に照応する特定の自然的条件及び人文的条件を与件として利用され、その社会的及び経済的な有用性を発揮するものである。そして、これらの諸条件の変化に伴って、その利用形態並びにその社会的及び経済的な有用性は変化する。
 不動産は、また、その自然的条件及び人文的条件の全部又は一部を共通にすることによって、他の不動産とともにある地域を構成し、その地域の構成分子としてその地域との間に、依存、補完等の関係に及びその地域内の他の構成分子である不動産との間に協働、代替、競争等の関係にたち、これらの関係を通じてその社会的及び経済的な有用性を発揮するものである(不動産の地域性)。
 このような地域には、その規模、構成の内容、機能等に従って各種のものが認められるが、そのいずれもが、不動産の集合という意味において、個別の不動産の場合と同様に、特定の自然的条件及び人文的条件との関係を前提とする利用のあり方の同一性を基準として理解されるものであって、他の地域と区別されるべき特性をそれぞれ有するとともに、他の地域との間に相互関係にたち、この相互関係を通じて、その社会的及び経済的位置を占めるものである(地域の特性)。
 このような不動産の特徴により、不動産の価格についても、他の一般の諸財の価格と異なって、およそ次のような特徴を指摘することができる。
(1)不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示されるとともに、その用益の対価である賃料として表示される。そして、この価格と賃料との間には、いわゆる元本と果実との間に認められる相関関係を認めることができる。
(2)不動産の価格(又は賃料)は、その不動産に関する所有権、賃借権等の権利の対価又は経済的利益の対価であり、また、二つ以上の権利利益が同一の不動産の上に存する場合には、それぞれの権利利益について、その価格(又は賃料)が形成され得る。
(3)不動産の属する地域は固定的なものではなくて、常に拡大縮小、集中拡散、発展衰退等の変化の過程にあるものであるから、不動産の利用形態が最適なものであるかどうか、仮に現在最適なものであっても、時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、これらは常に検討されなければならない。したがって、不動産の価格(又は賃料)は、通常、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成される。今日の価格(又は賃料)は、昨日の展開であり、明日を反映するものであって常に変化の過程にあるものである。
(4)不動産の現実の取引価格等は、取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個別的な事情に左右されがちのものであって、このような取引価格等から不動産の適正な価格を見出すことは一般の人には非常に困難である。したがって、不動産の適正な価格については専門家としての不動産鑑定士の鑑定評価活動が必要となるものである。

第3節 不動産の鑑定評価

 このように一般の諸財と異なる不動産についてその適正な価格を求めるためには、鑑定評価の活動に依存せざるを得ないこととなる。
 不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである。それは、この社会における一連の価格秩序の中で、その不動産の価格及び賃料がどのような所に位するかを指摘することであって、
(1)鑑定評価の対象となる不動産の的確な認識の上に、
(2)必要とする関連資料を十分に収集して、これを整理し、
(3)不動産の価格を形成する要因及び不動産の価格に関する諸原則についての十分な理解のもとに、
(4)鑑定評価の手法を駆使して、その間に、
(5)既に収集し、整理されている関連諸資料を具体的に分析して、対象不動産に及ぼす自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の影響を判断し、
(6)対象不動産の経済価値に関する最終判断に到達し、これを貨幣額をもって表示するものである。
 この判断の当否は、これら各段階のそれぞれについての不動産鑑定士の能力の如何及びその能力の行使の誠実さの如何に係るものであり、また、必要な関連諸資料の収集整理の適否及びこれらの諸資料の分析解釈の練達の程度に依存するものである。したがって、鑑定評価は、高度な知識と豊富な経験及び的確な判断力を持ち、さらに、これらが有機的かつ総合的に発揮できる練達堪能な専門家によってなされるとき、初めて合理的であって、客観的に論証できるものとなるのである。
 不動産の鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業に代表されるように、練達堪能な専門家によって初めて可能な仕事であるから、このような意味において、不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといってよいであろう。
 それはまた、この社会における一連の価格秩序のなかで、対象不動産の価格の占める適正なあり所を指摘することであるから、その社会的公共的意義は極めて大きいといわなければならない。

第4節 不動産鑑定士の責務

 土地は、土地基本法に定める土地についての基本理念に即して利用及び取引が行われるべきであり、特に投機的取引の対象とされてはならないものである。不動産鑑定士は、このような土地についての基本的な認識に立って不動産の鑑定評価を行わなければならない。
 不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を担当する者として、十分に能力のある専門家としての地位を不動産の鑑定評価に関する法律によって認められ、付与されるものである。したがって、不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価の社会的公共的意義を理解し、その責務を自覚し、的確かつ誠実な鑑定評価活動の実践をもって、社会一般の信頼と期待に報いなければならない。
 そのためには、まず、不動産鑑定士は、同法に規定されているとおり、良心に従い、誠実に不動産の鑑定評価を行い、専門職業家としての社会的信用を傷つけるような行為をしてはならないとともに、正当な理由がなくて、その職務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないことはいうまでもなく、さらに次に述べる事項を遵守して資質の向上に努めなければならない。
(1)高度な知識と豊富な経験と的確な判断力とが有機的に統一されて、初めて的確な鑑定評価が可能となるのであるから、不断の勉強と研鑚とによってこれを体得し、鑑定評価の進歩改善に努力すること。
(2)依頼者に対して鑑定評価の結果を分かり易く誠実に説明を行い得るようにするとともに、社会一般に対して、実践活動をもって、不動産の鑑定評価及びその制度に関する理解を深めることにより、不動産の鑑定評価に対する信頼を高めるよう努めること。
(3)不動産の鑑定評価に当たっては、自己又は関係人の利害の有無その他いかなる理由にかかわらず、公平妥当な態度を保持すること。
(4)不動産の鑑定評価に当たっては、専門職業家としての注意を払わなければならないこと。
(5)自己の能力の限度を超えていると思われる不動産の鑑定評価を引き受け、又は縁故若しくは特別の利害関係を有する場合等、公平な鑑定評価を害する恐れのあるときは、原則として不動産の鑑定評価を引き受けてはならないこと。

第2章 不動産の種別及び類型

 不動産の鑑定評価においては、不動産の地域性並びに有形的利用及び権利関係の態様に応じた分析を行う必要があり、その地域の特性等に基づく不動産の種類ごとに検討することが重要である。
 不動産の種類とは、不動産の種別及び類型の二面から成る複合的な不動産の概念を示すものであり、この不動産の種別及び類型が不動産の経済価値を本質的に決定づけるものであるから、この両面の分析をまって初めて精度の高い不動産の鑑定評価が可能となるものである。
 不動産の種別とは、不動産の用途に関して区分される不動産の分類をいい、不動産の類型とは、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて区分される不動産の分類をいう。

第1節 不動産の種別

Ⅰ地域の種別
 地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられる。
 宅地地域とは、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいい、住宅地域、商業地域、工業地域等に細分される。さらに住宅地域、商業地域、工業地域等については、その規模、構成の内容、機能等に応じた細分化が考えられる。
 農地地域とは、農業生産活動のうち耕作の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。
 林地地域とは、林業生産活動のうち木竹又は特用林産物の生育の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。
 なお、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域及び宅地地域、農地地域等のうちにあって、細分されたある種別の地域から、その地域の他の細分された地域へと移行しつつある地域があることに留意すべきである。
Ⅱ土地の種別
 土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地、農地、林地、見込地、移行地等に分けられ、さらに地域の種別の細分に応じて細分される。
 宅地とは、宅地地域のうちにある土地をいい、住宅地、商業地、工業地等に細分される。この場合において、住宅地とは住宅地域のうちにある土地をいい、商業地とは商業地域のうちにある土地をいい、工業地とは工業地域のうちにある土地をいう。
 農地とは、農地地域のうちにある土地をいう。
 林地とは、林地地域のうちにある土地(立木竹を除く。)をいう。
 見込地とは、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地をいい、宅地見込地、農地見込地等に分けられる。
 移行地とは、宅地地域、農地地域等のうちにあって、細分されたある種別の地域から他の種別の地域へと移行しつつある地域のうちにある土地をいう。

第2節 不動産の類型

 宅地並びに建物及びその敷地の類型を例示すれば、次のとおりである。
Ⅰ宅地
 宅地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、更地、建付地、借地権、底地、区分地上権等に分けられる。
 更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。
 建付地とは、建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属している宅地をいう。
 借地権とは、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づく借地権(建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権)をいう。
 底地とは、宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権をいう。
 区分地上権とは、工作物を所有するため、地下又は空間に上下の範囲を定めて設定された地上権をいう。
Ⅱ建物及びその敷地
 建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる。
 自用の建物及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であり、その所有者による使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地をいう。
 貸家及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であるが、建物が賃貸借に供されている場合における当該建物及びその敷地をいう。
 借地権付建物とは、借地権を権原とする建物が存する場合における当該建物及び借地権をいう。
 区分所有建物及びその敷地とは、建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分並びに当該専有部分に係る同条第4項に規定する共用部分の共有持分及び同条第6項に規定する敷地利用権をいう。

第3章 不動産の価格を形成する要因

 不動産の価格を形成する要因(以下「価格形成要因」という。)とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。不動産の価格は、多数の要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、価格形成要因を市場参加者の観点から明確に把握し、かつ、その推移及び動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析して、前記三者に及ぼすその影響を判定することが必要である。
 価格形成要因は、一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられる。

第1節 一般的要因

 一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。それは、自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別される。
 一般的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
Ⅰ自然的要因
1.地質、地盤等の状態
2.土壌及び土層の状態
3.地勢の状態
4.地理的位置関係
5.気象の状態
Ⅱ社会的要因
1.人口の状態
2.家族構成及び世帯分離の状態
3.都市形成及び公共施設の整備の状態
4.教育及び社会福祉の状態
5.不動産の取引及び使用収益の慣行
6.建築様式等の状態
7.情報化の進展の状態
8.生活様式等の状態
Ⅲ経済的要因
1.貯蓄、消費、投資及び国際収支の状態
2.財政及び金融の状態
3.物価、賃金、雇用及び企業活動の状態
4.税負担の状態
5.企業会計制度の状態
6.技術革新及び産業構造の状態
7.交通体系の状態
8.国際化の状態
Ⅳ行政的要因
1.土地利用に関する計画及び規制の状態
2.土地及び建築物の構造、防災等に関する規制の状態
3.宅地及び住宅に関する施策の状態
4.不動産に関する税制の状態
5.不動産の取引に関する規制の状態

第2節 地域要因

 地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
Ⅰ宅地地域
1.住宅地域

 住宅地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)日照、温度、湿度、風向等の気象の状態
(2)街路の幅員、構造等の状態
(3)都心との距離及び交通施設の状態
(4)商業施設の配置の状態
(5)上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態
(6)情報通信基盤の整備の状態
(7)公共施設、公益的施設等の配置の状態
(8)汚水処理場等の嫌悪施設等の有無
(9)洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
(10)騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度
(11)各画地の面積、配置及び利用の状態
(12)住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態
(13)眺望、景観等の自然的環境の良否
(14)土地利用に関する計画及び規制の状態
2.商業地域
 前記1.に掲げる地域要因のほか、商業地域特有の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)商業施設又は業務施設の種類、規模、集積度等の状態
(2)商業背後地及び顧客の質と量
(3)顧客及び従業員の交通手段の状態
(4)商品の搬入及び搬出の利便性
(5)街路の回遊性、アーケード等の状態
(6)営業の種別及び競争の状態
(7)当該地域の経営者の創意と資力
(8)繁華性の程度及び盛衰の動向
(9)駐車施設の整備の状態
(10)行政上の助成及び規制の程度
3.工業地域
 前記1.に掲げる地域要因のほか、工業地域特有の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設の整備の状況
(2)労働力確保の難易
(3)製品販売市場及び原材料仕入市場との位置関係
(4)動力資源及び用排水に関する費用
(5)関連産業との位置関係
(6)水質の汚濁、大気の汚染等の公害の発生の危険性
(7)行政上の助成及び規制の程度
Ⅱ農地地域
 農地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態
2.起伏、高低等の地勢の状態
3.土壌及び土層の状態
4.水利及び水質の状態
5.洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
6.道路等の整備の状態
7.集落との位置関係
8.集荷地又は産地市場との位置関係
9.消費地との距離及び輸送施設の状態
10.行政上の助成及び規制の程度
Ⅲ林地地域
 林地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態
2.標高、地勢等の状態
3.土壌及び土層の状態
4.林道等の整備の状態
5.労働力確保の難易
6.行政上の助成及び規制の程度
 なお、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換し、又は移行しつつある地域については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域の地域要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域の地域要因をより重視すべきである。

第3節 個別的要因

 個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。個別的要因は、土地、建物等の区分に応じて次のように分けられる。
Ⅰ土地に関する個別的要因
1.宅地
(1)住宅地

 住宅地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
①地勢、地質、地盤等
②日照、通風及び乾湿
③間口、奥行、地積、形状等
④高低、角地その他の接面街路との関係
⑤接面街路の幅員、構造等の状態
⑥接面街路の系統及び連続性
⑦交通施設との距離
⑧商業施設との接近の程度
⑨公共施設、公益的施設等との接近の程度
⑩汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度
⑪隣接不動産等周囲の状態
⑫上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
⑬情報通信基盤の利用の難易
⑭埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
⑮土壌汚染の有無及びその状態
⑯公法上及び私法上の規制、制約等
(2)商業地
 商業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
①地勢、地質、地盤等
②間口、奥行、地積、形状等
③高低、角地その他の接面街路との関係
④接面街路の幅員、構造等の状態
⑤接面街路の系統及び連続性
⑥商業地域の中心への接近性
⑦主要交通機関との接近性
⑧顧客の流動の状態との適合性
⑨隣接不動産等周囲の状態
⑩上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
⑪情報通信基盤の利用の難易
⑫埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
⑬土壌汚染の有無及びその状態
⑭公法上及び私法上の規制、制約等
(3)工業地
 工業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
①地勢、地質、地盤等
②間口、奥行、地積、形状等
③高低、角地その他の接面街路との関係
④接面街路の幅員、構造等の状態
⑤接面街路の系統及び連続性
⑥従業員の通勤等のための主要交通機関との接近性
⑦幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設との位置関係
⑧電力等の動力資源の状態及び引込の難易
⑨用排水等の供給・処理施設の整備の必要性
⑩上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
⑪情報通信基盤の利用の難易
⑫埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
⑬土壌汚染の有無及びその状態
⑭公法上及び私法上の規制、制約等
2.農地
 農地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)日照、乾湿、雨量等の状態
(2)土壌及び土層の状態
(3)農道の状態
(4)灌漑排水の状態
(5)耕うんの難易
(6)集落との接近の程度
(7)集荷地との接近の程度
(8)災害の危険性の程度
(9)公法上及び私法上の規制、制約等
3.林地
 林地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)日照、乾湿、雨量等の状態
(2)標高、地勢等の状態
(3)土壌及び土層の状態
(4)木材の搬出、運搬等の難易
(5)管理の難易
(6)公法上及び私法上の規制、制約等
4.見込地及び移行地
 見込地及び移行地については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域内の土地の個別的要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域内の土地の個
別的要因をより重視すべきである。
Ⅱ建物に関する個別的要因
 建物の各用途に共通する個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.建築(新築、増改築等又は移転)の年次
2.面積、高さ、構造、材質等
3.設計、設備等の機能性
4.施工の質と量
5.耐震性、耐火性等建物の性能
6.維持管理の状態
7.有害な物質の使用の有無及びその状態
8.建物とその環境との適合の状態
9.公法上及び私法上の規制、制約等
 なお、市場参加者が取引等に際して着目するであろう個別的要因が、建物の用途毎に異なることに留意する必要がある。
Ⅲ建物及びその敷地に関する個別的要因
 前記Ⅰ及びⅡに例示したもののほか、建物及びその敷地に関する個別的要因の主なものを例示すれば、敷地内における建物、駐車場、通路、庭等の配置、建物と敷地の規模の対応関係等建物等と敷地との適応の状態、修繕計画・管理計画の良否とその実施の状態がある。
 さらに、賃貸用不動産に関する個別的要因には、賃貸経営管理の良否があり、その主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.賃借人の状況及び賃貸借契約の内容
2.貸室の稼働状況
3.躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分

第4章 不動産の価格に関する諸原則

 不動産の価格は、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが、その形成の過程を考察するとき、そこに基本的な法則性を認めることができる。不動産の鑑定評価は、その不動産の価格の形成過程を追究し、分析することを本質とするものであるから、不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するためには、鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、これらを具体的に現した以下の諸原則を活用すべきである。
 これらの原則は、一般の経済法則に基礎を置くものであるが、鑑定評価の立場からこれを認識し、表現したものである。
 なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連しているものであることに留意しなければならない。
Ⅰ需要と供給の原則
 一般に財の価格は、その財の需要と供給との相互関係によって定まるとともに、その価格は、また、その財の需要と供給とに影響を及ぼす。
 不動産の価格もまたその需要と供給との相互関係によって定まるのであるが、不動産は他の財と異なる自然的特性及び人文的特性を有するために、その需要と供給及び価格の形成には、これらの特性の反映が認められる。
Ⅱ変動の原則
 一般に財の価格は、その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。
 不動産の価格も多数の価格形成要因の相互因果関係の組合せの流れである変動の過程において形成されるものである。したがって、不動産の鑑定評価に当たっては、価格形成要因が常に変動の過程にあることを認識して、各要因間の相互因果関係を動的に把握すべきである。特に、不動産の最有効使用(Ⅳ参照)を判定するためには、この変動の過程を分析することが必要である。
Ⅲ代替の原則
 代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる。
 不動産の価格も代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成される。
Ⅳ最有効使用の原則
 不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
 なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。
Ⅴ均衡の原則
 不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、その構成要素の組合せが均衡を得ていることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、この均衡を得ているかどうかを分析することが必要である。
Ⅵ収益逓増及び逓減の原則
 ある単位投資額を継続的に増加させると、これに伴って総収益は増加する。しかし、増加させる単位投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、その後は減少する。
 この原則は、不動産に対する追加投資の場合についても同様である。
Ⅶ収益配分の原則
 土地、資本、労働及び経営(組織)の各要素の結合によって生ずる総収益は、これらの各要素に配分される。したがって、このような総収益のうち、資本、労働及び経営(組織)に配分される部分以外の部分は、それぞれの配分が正しく行われる限り、土地に帰属するものである。
Ⅷ寄与の原則
 不動産のある部分がその不動産全体の収益獲得に寄与する度合いは、その不動産全体の価格に影響を及ぼす。
 この原則は、不動産の最有効使用の判定に当たっての不動産の追加投資の適否の判定等に有用である。
Ⅸ適合の原則
 不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、当該不動産がその環境に適合していることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産が環境に適合しているかどうかを分析することが必要である。
Ⅹ競争の原則
 一般に、超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を減少させ、終局的にはこれを消滅させる傾向を持つ。不動産についても、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の財との間において競争関係が認められ、したがって、不動産の価格は、このような競争の過程において形成される。
ⅩⅠ予測の原則
 財の価格は、その財の将来の収益性等についての予測を反映して定まる。
 不動産の価格も、価格形成要因の変動についての市場参加者による予測によって左右される。

第5章 鑑定評価の基本的事項

 不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点及び価格又は賃料の種類を確定しなければならない。

第1節 対象不動産の確定

 不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定することのみならず、鑑定評価の対象となる所有権及び所有権以外の権利を確定する必要がある。
 対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定することであり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものである。
Ⅰ対象確定条件
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
 対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に応じて次のような条件がある。
(1)不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。
(2)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を独立鑑定評価という。)。
(3)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を部分鑑定評価という。)。
(4)不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。
(5)造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。
 なお、上記に掲げるもののほか、対象不動産の権利の態様に関するものとして、価格時点と異なる権利関係を前提として鑑定評価の対象とすることがある。
2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
 なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されなければならない。
Ⅱ地域要因又は個別的要因についての想定上の条件
 対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。この場合には、設定する想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。
 一般に、地域要因について想定上の条件を設定することが妥当と認められる場合は、計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる。
Ⅲ調査範囲等条件
 不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合、当該価格形成要因について調査の範囲に係る条件(以下「調査範囲等条件」という。)を設定することができる。ただし、調査範囲等条件を設定することができるのは、調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限る。
Ⅳ鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす場合における条件設定の制限
 証券化対象不動産(各論第3章第1節において規定するものをいう。)の鑑定評価及び会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等、鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件及び調査範囲等条件の設定をしてはならない。ただし、証券化対象不動産の鑑定評価で、各論第3章第2節に定める要件を満たす場合には未竣工建物等鑑定評価を行うことができるものとする。
Ⅴ条件設定に関する依頼者との合意等
1.条件設定をする場合、依頼者との間で当該条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意がなくてはならない。
2.条件設定が妥当ではないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定しなければならない。

第2節 価格時点の確定

 価格形成要因は、時の経過により変動するものであるから、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものである。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産の価格の判定の基準日を確定する必要があり、この日を価格時点という。また、賃料の価格時点は、賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首となる。
 価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として現在の場合(現在時点)、過去の場合(過去時点)及び将来の場合(将来時点)に分けられる。

第3節 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定

 不動産鑑定士による不動産の鑑定評価は、不動産の適正な価格を求め、その適正な価格の形成に資するものでなければならない。
Ⅰ価格
 不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。なお、評価目的に応じ、特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。
1.正常価格
 正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。この場合において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。
(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。
 なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。
①売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。
②対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。
③取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。
④対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。
⑤買主が通常の資金調達能力を有していること。
(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。
(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
2.限定価格
 限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。
 限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合
3.特定価格
 特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
 特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
4.特殊価格
 特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
 特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。
Ⅱ賃料
 不動産の鑑定評価によって求める賃料は、一般的には正常賃料又は継続賃料であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定賃料を求めることができる場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえてこれを適切に判断し、明確にすべきである。
1.正常賃料
 正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権若しくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。
2.限定賃料
 限定賃料とは、限定価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料(新規賃料)をいう。
 限定賃料を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
(2)経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
3.継続賃料
 継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

第6章 地域分析及び個別分析

 対象不動産の地域分析及び個別分析を行うに当たっては、まず、それらの基礎となる一般的要因がどのような具体的な影響力を持っているかを的確に把握しておくことが必要である。

第1節 地域分析

Ⅰ地域分析の意義
 地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいう。
Ⅱ地域分析の適用
1.地域及びその特性
 地域分析に当たって特に重要な地域は、用途的観点から区分される地域(以下「用途的地域」という。)、すなわち近隣地域及びその類似地域と、近隣地域及びこれと相関関係にある類似地域を含むより広域的な地域、すなわち同一需給圏である。
 また、近隣地域の特性は、通常、その地域に属する不動産の一般的な標準的使用に具体的に現れるが、この標準的使用は、利用形態からみた地域相互間の相対的位置関係及び価格形成を明らかにする手掛りとなるとともに、その地域に属する不動産のそれぞれについての最有効使用を判定する有力な標準となるものである。
 なお、不動産の属する地域は固定的なものではなく、地域の特性を形成する地域要因も常に変動するものであることから、地域分析に当たっては、対象不動産に係る市場の特性の把握の結果を踏まえて地域要因及び標準的使用の現状と将来の動向とをあわせて分析し、標準的使用を判定しなければならない。
(1)用途的地域
①近隣地域

 近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。
 近隣地域は、その地域の特性を形成する地域要因の推移、動向の如何によって、変化していくものである。
②類似地域
 類似地域とは、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域であり、その地域に属する不動産は、特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを持つものである。この地域のまとまりは、近隣地域の特性との類似性を前提として判定されるものである。
(2)同一需給圏
 同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものである。
 一般に、近隣地域と同一需給圏内に存する類似地域とは、隣接すると否とにかかわらず、その地域要因の類似性に基づいて、それぞれの地域の構成分子である不動産相互の間に代替、競争等の関係が成立し、その結果、両地域は相互に影響を及ぼすものである。
 また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づいて、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。
 同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。
 同一需給圏の判定に当たって特に留意すべき基本的な事項は、次のとおりである。
①宅地
ア住宅地

 同一需給圏は、一般に都心への通勤可能な地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。
 なお、地域の名声、品位等による選好性の強さが同一需給圏の地域的範囲に特に影響を与える場合があることに留意すべきである。
イ商業地
 同一需給圏は、高度商業地については、一般に広域的な商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される傾向がある。
 また、普通商業地については、一般に狭い商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。
ウ工業地
 同一需給圏は、港湾、高速交通網等の利便性を指向する産業基盤指向型工業地等の大工場地については、一般に原材料、製品等の大規模な移動を可能にする高度の輸送機関に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その地域的範囲は、全国的な規模となる傾向がある。
 また、製品の消費地への距離、消費規模等の市場接近性を指向する消費地指向型工業地等の中小工場地については、一般に製品の生産及び販売に関する費用の経済性に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向がある。
エ移行地
 同一需給圏は、一般に当該土地が移行すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、移行前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。
②農地
 同一需給圏は、一般に当該農地を中心とする通常の農業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する農業経営主体を中心とするそれぞれの農業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。
③林地
 同一需給圏は、一般に当該林地を中心とする通常の林業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する林業経営主体を中心とするそれぞれの林業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。
④見込地
 同一需給圏は、一般に当該土地が転換すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、転換前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。
⑤建物及びその敷地
 同一需給圏は、一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向があるが、当該建物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代替関係にある不動産の存する範囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と一致しない場合がある。
2.対象不動産に係る市場の特性
 地域分析における対象不動産に係る市場の特性の把握に当たっては、同一需給圏における市場参加者がどのような属性を有しており、どのような観点から不動産の利用形態を選択し、価格形成要因についての判断を行っているかを的確に把握することが重要である。あわせて同一需給圏における市場の需給動向を的確に把握する必要がある。
 また、把握した市場の特性については、近隣地域における標準的使用の判定に反映させるとともに鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における各種の判断においても反映すべきである。

第2節 個別分析

Ⅰ個別分析の意義
 不動産の価格は、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成されるものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産の最有効使用を判定する必要がある。個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析してその最有効使用を判定することをいう。
Ⅱ個別分析の適用
1.個別的要因の分析上の留意点

 個別的要因は、対象不動産の市場価値を個別的に形成しているものであるため、個別的要因の分析においては、対象不動産に係る典型的な需要者がどのような個別的要因に着目して行動し、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度をどのように評価しているかを的確に把握することが重要である。
 また、個別的要因の分析結果は、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における各種の判断においても反映すべきである。
2.最有効使用の判定上の留意点
 不動産の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(1)良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であること。
(2)使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得る使用方法であること。
(3)効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないこと。
(4)個々の不動産の最有効使用は、一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるので、個別分析に当たっては、特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との相互関係を明らかにし判定することが必要であるが、対象不動産の位置、規模、環境等によっては、標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、こうした場合には、それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行った上で最有効使用を判定すること。
(5)価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。
 特に、建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(6)現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更地としての最有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるため、建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではないこと。
(7)現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそれらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。

第7章 鑑定評価の方式

 不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式がある。原価方式は不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達をいう。)に要する原価に着目して、比較方式は不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着目して、収益方式は不動産から生み出される収益に着目して、それぞれ不動産の価格又は賃料を求めようとするものである。
 不動産の鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類される。それぞれの鑑定評価の手法の適用により求められた価格又は賃料を試算価格又は試算賃料という。

第1節 価格を求める鑑定評価の手法

 不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別され、このほかこれら三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。

Ⅰ試算価格を求める場合の一般的留意事項
1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連

 価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。
2.事例の収集及び選択
 鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当たって必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という。)がある。取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない。
 取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。
(1)次の不動産に係るものであること
①近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産
②対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。
(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。
(3)時点修正をすることが可能なものであること。
(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。
3.事情補正
 取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。
(1)現実に成立した取引事例等には、不動産市場の特性、取引等における当事者双方の能力の多様性と特別の動機により売り急ぎ、買い進み等の特殊な事情が存在する場合もあるので、取引事例等がどのような条件の下で成立したものであるかを資料の分析に当たり十分に調査しなければならない。
(2)特殊な事情とは、正常価格を求める場合には、正常価格の前提となる現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる諸条件を欠くに至らしめる事情のことである。
4.時点修正
 取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正しなければならない。
5.地域要因の比較及び個別的要因の比較
 取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産の個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。
Ⅱ原価法
1.意義

 原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。
 原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。
2.適用方法
(1)再調達原価の意義

 再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。
 なお、建設資材、工法等の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には、対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなすものとする。
(2)再調達原価を求める方法
 再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
 なお、置換原価は、対象不動産と同等の有用性を持つ不動産を新たに調達することを想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求める。
 これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。
①土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
 なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。
②建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるものとする。
③再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。
ア直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。
 直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものとする。
 また、対象不動産の素材となった土地(素地)の価格並びに実際の造成又は建設に要する直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求めることができる。
イ間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法である。
 間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとする。
3.減価修正
 減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。
 減価修正を行うに当たっては、減価の要因に着目して対象不動産を部分的かつ総合的に分析検討し、減価額を求めなければならない。
(1)減価の要因
 減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。
 これらの要因は、それぞれ独立しているものではなく、相互に関連し、影響を与え合いながら作用していることに留意しなければならない。
①物理的要因
 物理的要因としては、不動産を使用することによって生ずる摩滅及び破損、時の経過又は自然的作用によって生ずる老朽化並びに偶発的な損傷があげられる。
②機能的要因
 機能的要因としては、不動産の機能的陳腐化、すなわち、建物と敷地との不適応、設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等があげられる。
③経済的要因
 経済的要因としては、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地域の衰退、不動産とその付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動産又は付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられる。
(2)減価修正の方法
 減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。
①耐用年数に基づく方法
 耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。
 経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じてその効用が十分に持続すると考えられる期間をいい、この方法の適用に当たり特に重視されるべきものである。
 耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用いるかは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。
 なお、対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経過年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判断して用いるか、また、耐用年数満了時における残材価額をいかにみるかについても、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。
②観察減価法
 観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求める方法である。
 観察減価法の適用においては、対象不動産に係る個別分析の結果を踏まえた代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等を適切に反映すべきである。
Ⅲ取引事例比較法
1.意義

 取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。
 取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。
2.適用方法
(1)事例の収集及び選択

 取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、多数の取引事例を収集することが必要である。
 取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならない。
①取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。
②時点修正をすることが可能なものであること。
③地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。
(2)事情補正及び時点修正
 取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められるときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。
 時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきである。
(3)地域要因の比較及び個別的要因の比較
 取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとする。
 また、このほか地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある。
(4)配分法
 取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。)。
Ⅳ収益還元法
1.意義

 収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
 収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
 また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
 なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。
2.収益価格を求める方法
 収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow法(以下「DCF法」という。))がある。
 これらの方法は、基本的には次の式により表される。
(1)直接還元法
P=a/R
P:求める不動産の収益価格
a:一期間の純収益
R:還元利回り
(2)DCF法
P=(k=1からnまでの総和){ak/(1+Y)k乗}+{PR/(1+Y)n乗}
P:求める不動産の収益価格
ak:毎期の純収益
Y:割引率
n:保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)
PR:復帰価格
 復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の式により表される。
PR=(an+1)/Rn
an+1:n+1期の純収益
Rn:保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
3.適用方法
(1)純収益
①純収益の意義

 純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。
②純収益の算定
 対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
 なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
 純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。
 特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。
 なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。
ア総収益の算定及び留意点
(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
 賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。
 賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。
 なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合
 対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。
イ総費用の算定及び留意点
 賃貸用不動産(ア(イ)の複合不動産を想定する場合を含む。)の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。
 賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。
 なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
(2)還元利回り及び割引率
①還元利回り及び割引率の意義
 還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。
 還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
 割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
②還元利回り及び割引率の算定
ア還元利回り及び割引率を求める際の留意点
 還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。
 さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。
イ還元利回りを求める方法
 還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
 この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回りをもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。
(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
 この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回りを各々の構成割合により加重平均して求めるものである。
(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
 この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。
(エ)割引率との関係から求める方法
 
この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。
ウ割引率を求める方法
 割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
 この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる割引率をもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。
(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
 この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各割引率を各々の構成割合により加重平均して求めるものである。
(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
 この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。
(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方
 直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。

第2節 賃料を求める鑑定評価の手法

 不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。
Ⅰ賃料を求める場合の一般的留意事項
 賃料の鑑定評価は、対象不動産について、賃料の算定の期間に対応して、実質賃料を求めることを原則とし、賃料の算定の期間及び支払いの時期に係る条件並びに権利金、敷金、保証金等の一時金の授受に関する条件が付されて支払賃料を求めることを依頼された場合には、実質賃料とともに、その一部である支払賃料を求めることができるものとする。
1.実質賃料と支払賃料
 実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされる諸経費等(以下「必要諸経費等」という。)から成り立つものである。
 支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償却額と併せて実質賃料を構成するものである。
 なお、慣行上、建物及びその敷地の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費等の名目で支払われる場合もあるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合があることに留意する必要がある。
2.支払賃料の求め方
 契約に当たって一時金が授受される場合における支払賃料は、実質賃料から、当該一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額並びに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする。
 なお、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求めるものとする。
 運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利、国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。
3.賃料の算定の期間
 鑑定評価によって求める賃料の算定の期間は、原則として、宅地並びに建物及びその敷地の賃料にあっては1月を単位とし、その他の土地にあっては1年を単位とするものとする。
4.継続賃料を求める場合
 継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。
Ⅱ新規賃料を求める鑑定評価の手法
1.積算法
(1)意義

 積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。)。
 積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場合に有効である。
(2)適用方法
①基礎価格

 基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。
②期待利回り
 期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。
 期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意すべきである。
③必要諸経費等
 不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられる。
ア減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)
イ維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ウ公租公課(固定資産税、都市計画税等)
エ損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
オ貸倒れ準備費
カ空室等による損失相当額
2.賃貸事例比較法
(1)意義

 賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るすべての経済的対価をいう。)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を比準賃料という。)。
 賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等が行われている場合に有効である。
(2)適用方法
①事例の収集及び選択

 賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の収集及び選択に準ずるものとする。この場合において、賃貸借等の契約の内容について類似性を有するものを選択すべきことに留意しなければならない。
②事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較
 事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較については、取引事例比較法の場合に準ずるものとする。
3.収益分析法
(1)意義

 収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを収益純賃料という。)を求め、これに必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を収益賃料という。)。
 収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求め得る場合に有効である。
(2)適用方法
①収益純賃料の算定

 収益純賃料の算定については、収益還元法における純収益の算定に準ずるものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意しなければならない。
②収益賃料を求める手法
 収益賃料は、収益純賃料の額に賃貸借等に当たって賃料に含まれる必要諸経費等を加算することによって求めるものとする。
 なお、一般企業経営に基づく総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費等を含む賃料相当額を収益賃料として直接求めることができる場合もある。
Ⅲ継続賃料を求める鑑定評価の手法
1.差額配分法
(1)意義

 差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。
(2)適用方法
①対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
 対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。
②賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとする。
2.利回り法
(1)意義

 利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
(2)適用方法
①基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとする。
②継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。
3.スライド法
(1)意義

 スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
 なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものとする。
(2)適用方法
①変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。
②必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。
4.賃貸事例比較法
 賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意しなければならない。

第8章 鑑定評価の手順

 鑑定評価を行うためには、合理的かつ現実的な認識と判断に基づいた一定の秩序的な手順を必要とする。この手順は、一般に鑑定評価の基本的事項の確定、依頼者、提出先等及び利害関係等の確認、処理計画の策定、対象不動産の確認、資料の収集及び整理、資料の検討及び価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整、鑑定評価額の決定並びに鑑定評価報告書の作成の作業から成っており、不動産の鑑定評価に当たっては、これらを秩序的に実施すべきである。

第1節 鑑定評価の基本的事項の確定

 鑑定評価に当たっては、まず、鑑定評価の基本的事項を確定しなければならない。
 このため、鑑定評価の依頼目的、条件及び依頼が必要となった背景について依頼者に明瞭に確認するものとする。

第2節 依頼者、提出先等及び利害関係等の確認

 前節による依頼者への確認においては、あわせて、次に掲げる事項を確認するものとする。
Ⅰ依頼者並びに鑑定評価書が依頼者以外の者へ提出される場合における当該提出先及び鑑定評価額が依頼者以外の者へ開示される場合における当該開示の相手方
Ⅱ関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等
1.関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者の対象不動産に関する利害関係等
 関与不動産鑑定士(当該鑑定評価に関与するすべての不動産鑑定士をいう。以下同じ。)及び関与不動産鑑定業者(関与不動産鑑定士の所属する不動産鑑定業者をいう。以下同じ。)について、対象不動産に関する利害関係又は対象不動産に関し利害関係を有する者との縁故若しくは特別の利害関係の有無及びその内容を明らかにしなければならない。
2.依頼者と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との関係
 依頼者と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との間の特別の資本的関係、人的関係及び取引関係の有無並びにその内容を明らかにしなければならない。
3.提出先等と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との関係
 鑑定評価書が依頼者以外の者へ提出される場合における当該提出先又は鑑定評価額が依頼者以外の者へ開示される場合における当該開示の相手方(以下「提出先等」という。)と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との間の特別の資本的関係、人的関係及び取引関係の有無並びにその内容を明らかにしなければならない。ただし、提出先等が未定の場合又は明らかとならない場合における当該提出先等については、その旨を明らかにすれば足りる。
Ⅲ鑑定評価額の公表の有無

第3節 処理計画の策定

 処理計画の策定に当たっては、第1節により確定された鑑定評価の基本的事項に基づき、実施すべき作業の性質及び量、処理能力等に即応して、対象不動産の確認、資料の収集及び整理、資料の検討及び価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整、鑑定評価額の決定等鑑定評価の作業に係る処理計画を秩序的に策定しなければならない。

第4節 対象不動産の確認

 対象不動産の確認に当たっては、第1節により確定された対象不動産についてその内容を明瞭にしなければならない。対象不動産の確認は、対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認に分けられ、実地調査、聴聞、公的資料の確認等により、的確に行う必要がある。
Ⅰ対象不動産の物的確認
 対象不動産の物的確認に当たっては、土地についてはその所在、地番、数量等を、建物についてはこれらのほか家屋番号、建物の構造、用途等を、それぞれ実地に確認することを通じて、第1節により確定された対象不動産の存否及びその内容を、確認資料(第5節Ⅰ参照)を用いて照合しなければならない。
 また、物的確認を行うに当たっては、対象不動産について登記事項証明書等により登記又は登録されている内容とその実態との異同について把握する必要がある。
Ⅱ権利の態様の確認
 権利の態様の確認に当たっては、Ⅰによって物的に確認された対象不動産について、当該不動産に係るすべての権利関係を明瞭に確認することにより、第1節により確定された鑑定評価の対象となる権利の存否及びその内容を、確認資料を用いて照合しなければならない。

第5節 資料の収集及び整理

 鑑定評価の成果は、採用した資料によって左右されるものであるから、資料の収集及び整理は、鑑定評価の作業に活用し得るように適切かつ合理的な計画に基づき、実地調査、聴聞、公的資料の確認等により的確に行うものとし、公正妥当を欠くようなことがあってはならない。
 鑑定評価に必要な資料は、おおむね次のように分けられる。
Ⅰ確認資料
 確認資料とは、不動産の物的確認及び権利の態様の確認に必要な資料をいう。確認資料としては、登記事項証明書、土地又は建物等の図面、写真、不動産の所在地に関する地図等があげられる。
Ⅱ要因資料
 要因資料とは、価格形成要因に照応する資料をいう。要因資料は、一般的要因に係る一般資料、地域要因に係る地域資料及び個別的要因に係る個別資料に分けられる。一般資料及び地域資料は、平素からできるだけ広くかつ組織的に収集しておくべきである。個別資料は、対象不動産の種類、対象確定条件等案件の相違に応じて適切に収集すべきである。
Ⅲ事例資料
 事例資料とは、鑑定評価の手法の適用に必要とされる現実の取引価格、賃料等に関する資料をいう。事例資料としては、建設事例、取引事例、収益事例、賃貸借等の事例等があげられる。
 なお、鑑定評価先例価格は鑑定評価に当たって参考資料とし得る場合があり、売買希望価格等についても同様である。

第6節 資料の検討及び価格形成要因の分析

 資料の検討に当たっては、収集された資料についてそれが鑑定評価の作業に活用するために必要にして十分な資料であるか否か、資料が信頼するに足りるものであるか否かについて考察しなければならない。この場合においては、価格形成要因を分析するために、その資料が対象不動産の種類並びに鑑定評価の依頼目的及び条件に即応しているか否かについて検討すべきである。
 価格形成要因の分析に当たっては、収集された資料に基づき、一般的要因を分析するとともに、地域分析及び個別分析を通じて対象不動産についてその最有効使用を判定しなければならない。
 さらに、価格形成要因について、専門職業家としての注意を尽くしてもなお対象不動産の価格形成に重大な影響を与える要因が十分に判明しない場合には、原則として他の専門家が行った調査結果等を活用することが必要である。ただし、依頼目的や依頼者の事情による制約がある場合には、依頼者の同意を得て、想定上の条件を設定して鑑定評価を行うこと若しくは調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行うこと、又は自己の調査分析能力の範囲内で当該要因に係る価格形成上の影響の程度を推定して鑑定評価を行うことができる。この場合、想定上の条件又は調査範囲等条件を設定するためには条件設定に係る一定の要件を満たすことが必要であり、また、推定を行うためには客観的な推定ができると認められることが必要である。

第7節 鑑定評価の手法の適用

 鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。

第8節 試算価格又は試算賃料の調整

 試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
 試算価格又は試算賃料の調整に当たっては、対象不動産の価格形成を論理的かつ実証的に説明できるようにすることが重要である。このため、鑑定評価の手順の各段階について、客観的、批判的に再吟味し、その結果を踏まえた各試算価格又は各試算賃料が有する説得力の違いを適切に反映することによりこれを行うものとする。この場合において、特に次の事項に留意すべきである。
Ⅰ各試算価格又は試算賃料の再吟味
1.資料の選択、検討及び活用の適否
2.不動産の価格に関する諸原則の当該案件に即応した活用の適否
3.一般的要因の分析並びに地域分析及び個別分析の適否
4.各手法の適用において行った各種補正、修正等に係る判断の適否
5.各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性
6.単価と総額との関連の適否
Ⅱ各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断
1.対象不動産に係る地域分析及び個別分析の結果と各手法との適合性
2.各手法の適用において採用した資料の特性及び限界からくる相対的信頼性

第9節 鑑定評価額の決定

 第1節から第8節で述べた手順を十分に尽した後、専門職業家としての良心に従い適正と判断される鑑定評価額を決定すべきである。
 この場合において、地価公示法施行規則第1条第1項に規定する国土交通大臣が定める公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない。

第10節 鑑定評価報告書の作成

 鑑定評価額が決定されたときは、鑑定評価報告書を作成するものとする。

第9章 鑑定評価報告書

 鑑定評価報告書は、不動産の鑑定評価の成果を記載した文書であり、不動産鑑定士が自己の専門的学識と経験に基づいた判断と意見を表明し、その責任を明らかにすることを目的とするものである。

第1節 鑑定評価報告書の作成指針

 鑑定評価報告書は、鑑定評価の基本的事項及び鑑定評価額を表し、鑑定評価額を決定した理由を説明し、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士の責任の所在を示すことを主旨とするものであるから、鑑定評価報告書の作成に当たっては、まずその鑑定評価の過程において採用したすべての資料を整理し、価格形成要因に関する判断、鑑定評価の手法の適用に係る判断等に関する事項を明確にして、これに基づいて作成すべきである。
 鑑定評価報告書の内容は、不動産鑑定業者が依頼者に交付する鑑定評価書の実質的な内容となるものである。したがって、鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるものであるから、その作成に当たっては、誤解の生ずる余地を与えないよう留意するとともに、特に鑑定評価額の決定の理由については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない。

第2節 記載事項

 鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるところに留意して記載しなければならない。
Ⅰ鑑定評価額及び価格又は賃料の種類
 正常価格又は正常賃料を求めることができる不動産について、依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は限定賃料を求めた場合は、かっこ書きで正常価格又は正常賃料である旨を付記してそれらの額を併記しなければならない。また、総論第7章第2節Ⅰ1.に定める支払賃料の鑑定評価を依頼された場合における鑑定評価額の記載は、支払賃料である旨を付記して支払賃料の額を表示するとともに、当該支払賃料が実質賃料と異なる場合においては、かっこ書きで実質賃料である旨を付記して実質賃料の額を併記するものとする。
Ⅱ鑑定評価の条件
 対象確定条件、依頼目的に応じ設定された地域要因若しくは個別的要因についての想定上の条件又は調査範囲等条件についてそれらの条件の内容及び評価における取扱いが妥当なものであると判断した根拠を明らかにするとともに、必要があると認められるときは、当該条件が設定されない場合の価格等の参考事項を記載すべきである。
Ⅲ対象不動産の所在、地番、地目、家屋番号、構造、用途、数量等及び対象不動産に係る権利の種類
Ⅳ対象不動産の確認に関する事項
 対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認について、確認資料と照合した結果を明確に記載しなければならない。
 また、後日対象不動産の現況把握に疑義が生ずる場合があることを考慮して、以下の事項を合わせて記載しなければならない。
1.実地調査を行った年月日
2.実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
3.立会人の氏名及び職業
4.実地調査を行った範囲(内覧の実施の有無を含む。)
5.実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由
Ⅴ鑑定評価の依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又は賃料の種類との関連
 鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、当該価格又は賃料を求めるべきと判断した理由を記載しなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない。
Ⅵ価格時点及び鑑定評価を行った年月日
Ⅶ鑑定評価額の決定の理由の要旨
 鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
1.地域分析及び個別分析に係る事項
 対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じ、同一需給圏及び近隣地域の範囲及び状況、対象不動産に係る価格形成要因についての状況、同一需給圏の市場動向及び同一需給圏における典型的な市場参加者の行動、代替、競争等の関係にある不動産と比べた対象不動産の優劣及び競争力の程度等について記載しなければならない。
2.最有効使用の判定に関する事項
 最有効使用及びその判定の理由を明確に記載する。なお、建物及びその敷地に係る鑑定評価における最有効使用の判定の記載は、建物及びその敷地の最有効使用のほか、その敷地の更地としての最有効使用についても記載しなければならない。
3.鑑定評価の手法の適用に関する事項
 適用した鑑定評価の手法について、対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた各論第1章から第3章の規定並びに地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等との関係を記載しなければならない。
4.試算価格又は試算賃料の調整に関する事項
 試算価格又は試算賃料の再吟味及び説得力に係る判断の結果を記載しなければならない。
5.公示価格との規準に関する事項
6.当事者間で事実の主張が異なる事項
 対象不動産に関し、争訟等の当事者間において主張が異なる事項が判明している場合には、当該事項に関する取扱いについて記載しなければならない。
7.その他
 総論第7章第2節Ⅰ1.に定める支払賃料を求めた場合には、その支払賃料と実質賃料との関連を記載しなければならない。また、継続賃料を求めた場合には、直近合意時点について記載しなければならない。
Ⅷ鑑定評価上の不明事項に係る取扱い及び調査の範囲
 対象不動産の確認、資料の検討及び価格形成要因の分析等、鑑定評価の手順の各段階において、鑑定評価における資料収集の限界、資料の不備等によって明らかにすることができない事項が存する場合(調査範囲等条件を設定した場合を含む。)の評価上の取扱いを記載しなければならない。その際、不動産鑑定士が自ら行った調査の範囲及び内容を明確にするとともに、他の専門家が行った調査結果等を活用した場合においては、当該専門家が調査した範囲及び内容を明確にしなければならない。
Ⅸ関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等
1.関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者の対象不動産に関する利害関係等
 関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者について、対象不動産に関する利害関係又は対象不動産に関し利害関係を有する者との縁故若しくは特別の利害関係の有無及びその内容について記載しなければならない。
2.依頼者と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との関係
 依頼者と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との間の特別の資本的関係、人的関係及び取引関係の有無並びにその内容について記載しなければならない。
3.提出先等と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との関係等
 提出先等と関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者との間の特別の資本的関係、人的関係及び取引関係の有無並びにその内容(提出先等が未定の場合又は明らかとならない場合における当該提出先等については、その旨)を記載しなければならない。
Ⅹ関与不動産鑑定士の氏名
Ⅺ依頼者及び提出先等の氏名又は名称
Ⅻ鑑定評価額の公表の有無について確認した内容

第3節 附属資料

 対象不動産等の所在を明示した地図、土地又は建物等の図面、写真等の確認資料、事例資料等は、必要に応じて鑑定評価報告書に添付するものとする。
 なお、他の専門家が行った調査結果等を活用するために入手した調査報告書等の資料についても、必要に応じて、附属資料として添付するものとする。ただし、当該他の専門家の同意が得られないときは、この限りでない。

各論

 不動産鑑定士は、総論において記述したところに従い自己の専門的学識と応用能力に基づき、個々の案件に応じて不動産の鑑定評価を行うべきであるが、具体的な案件に臨んで的確な鑑定評価を期するためには、基本的に以下に掲げる不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた鑑定評価の手法等を活用する必要がある。

第1章 価格に関する鑑定評価

第1節 土地

Ⅰ宅地
1.更地

 更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとする(この手法を開発法という。)。
(1)一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格
(2)分割利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格
 なお、配分法及び土地残余法を適用する場合における取引事例及び収益事例は、敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきである。
2.建付地
 建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を持つものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが合理的である場合において、その敷地(建物等に係る敷地利用権原のほか、地役権等の使用収益を制約する権利が付着している場合にはその状態を所与とする。)について部分鑑定評価をするものである。
 建付地の鑑定評価額は、更地の価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使用との格差、更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
 ただし、建物及びその敷地としての価格(以下「複合不動産価格」という。)をもとに敷地に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。
3.借地権及び底地
 借地権及び底地の鑑定評価に当たっては、借地権の価格と底地の価格とは密接に関連し合っているので、以下に述べる諸点を十分に考慮して相互に比較検討すべきである。
①宅地の賃貸借等及び借地権取引の慣行の有無とその成熟の程度は、都市によって異なり、同一都市内においても地域によって異なることもあること。
②借地権の存在は、必ずしも借地権の価格の存在を意味するものではなく、また、借地権取引の慣行について、借地権が単独で取引の対象となっている都市又は地域と、単独で取引の対象となることはないが建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域とがあること。
③借地権取引の態様
ア借地権が一般に有償で創設され、又は継承される地域であるか否か。
イ借地権の取引が一般に借地権設定者以外の者を対象として行われる地域であるか否か。
ウ堅固建物の所有を目的とする借地権の多い地域であるか否か。
エ借地権に対する権利意識について借地権者側が強い地域であるか否か。
オ一時金の授受が慣行化している地域であるか否か。
カ借地権の譲渡に当たって名義書替料を一般に譲受人又は譲渡人のいずれが負担する地域であるか。
④借地権の態様
ア創設されたものか継承されたものか。
イ地上権か賃借権か。
ウ転借か否か。
エ堅固の建物の所有を目的とするか、非堅固の建物の所有を目的とするか。
オ主として居住用建物のためのものか、主として営業用建物のためのものか。
カ契約期間の定めの有無
キ特約条項の有無
ク契約は書面か口頭か。
ケ登記の有無
コ定期借地権等(借地借家法第二章第四節に規定する定期借地権等)
(1)借地権
①借地権の価格
 借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することにより借地権者に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含む。)を貨幣額で表示したものである。
 借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎とするものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。
ア土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益
イ借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分
②借地権の鑑定評価
 借地権の鑑定評価は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によってその手法を異にするものである。
ア借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域
 借地権の鑑定評価額は、借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び借地権取引が慣行として成熟している場合における当該地域の借地権割合により求めた価格を関連づけて決定するものとする。
 この場合においては、次の(ア)から(キ)までに掲げる事項(定期借地権の評価にあっては、(ア)から(ケ)までに掲げる事項)を総合的に勘案するものとする。
(ア)将来における賃料の改定の実現性とその程度
(イ)借地権の態様及び建物の残存耐用年数
(ウ)契約締結の経緯並びに経過した借地期間及び残存期間
(エ)契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件
(オ)将来見込まれる一時金の額及びこれに関する契約条件
(カ)借地権の取引慣行及び底地の取引利回り
(キ)当該借地権の存する土地に係る更地としての価格又は建付地としての価格
(ク)借地期間満了時の建物等に関する契約内容
(ケ)契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合における建物の使用収益が期待できない期間
イ借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域
 借地権の鑑定評価額は、土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び当該借地権の存する土地に係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を関連づけて決定するものとする。
 この場合においては、前記ア(ア)から(キ)までに掲げる事項(定期借地権の評価にあっては、(ア)から(ケ)までに掲げる事項)を総合的に勘案するものとする。
(2)底地
 底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において借地権設定者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。
 借地権設定者に帰属する経済的利益とは、当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。なお、将来において一時金の授受が見込まれる場合には、当該一時金の経済的利益も借地権設定者に帰属する経済的利益を構成する場合があることに留意すべきである。
 底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。
 この場合においては、前記(1)②ア(ア)から(キ)までに掲げる事項(定期借地権の付着している宅地の評価に当たっては、(ア)から(ク)までに掲げる事項)を総合的に勘案するものとする。
 また、底地を当該借地権者が買い取る場合における底地の鑑定評価に当たっては、当該宅地又は建物及びその敷地が同一所有者に帰属することによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきである。
4.区分地上権
 区分地上権の価格は、一般に区分地上権の設定に係る土地(以下「区分地上権設定地」という。)の経済価値を基礎として、権利の設定範囲における権利利益の内容により定まり、区分地上権設定地全体の経済価値のうち、平面的・立体的空間の分割による当該権利の設定部分の経済価値及び設定部分の効用を保持するため他の空間部分の利用を制限することに相応する経済価値を貨幣額で表示したものである。
 この場合の区分地上権の鑑定評価額は、設定事例等に基づく比準価格、土地残余法に準じて求めた収益価格及び区分地上権の立体利用率により求めた価格を関連づけて得た価格を標準とし、区分地上権の設定事例等に基づく区分地上権割合により求めた価格を比較考量して決定するものとする。
Ⅱ農地
 公共事業の用に供する土地の取得等農地を農地以外のものとするための取引に当たって、当該取引に係る農地の鑑定評価を求められる場合がある。
 この場合における農地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
 なお、公共事業の用に供する土地の取得に当たっては、土地の取得により通常生ずる損失の補償として農業補償が別途行われる場合があることに留意すべきである。
Ⅲ林地
 公共事業の用に供する土地の取得等林地を林地以外のものとするための取引に当たって、当該取引に係る林地の鑑定評価を求められる場合がある。
 この場合における林地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
 なお、公共事業の用に供する土地の取得に当たっては、土地の取得により通常生ずる損失の補償として立木補償等が別途行われる場合があることに留意すべきである。
Ⅳ宅地見込地
 宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格及び当該宅地見込地について、価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適切に修正して得た価格を関連づけて決定するものとする。この場合においては、特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
1.当該宅地見込地の宅地化を助長し、又は阻害している行政上の措置又は規制
2.付近における公共施設及び公益的施設の整備の動向
3.付近における住宅、店舗、工場等の建設の動向
4.造成の難易及びその必要の程度
5.造成後における宅地としての有効利用度
 また、熟成度の低い宅地見込地を鑑定評価する場合には、比準価格を標準とし、転換前の土地の種別に基づく価格に宅地となる期待性を加味して得た価格を比較考量して決定するものとする。

第2節 建物及びその敷地

Ⅰ自用の建物及びその敷地
 自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。
 なお、建物の用途を変更し、又は建物の構造等を改造して使用することが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、用途変更等を行った後の経済価値の上昇の程度、必要とされる改造費等を考慮して決定するものとする。
 また、建物を取り壊すことが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、建物の解体による発生材料の価格から取壊し、除去、運搬等に必要な経費を控除した額を、当該敷地の最有効使用に基づく価格に加減して決定するものとする。
Ⅱ貸家及びその敷地
 貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。この場合において、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
1.将来における賃料の改定の実現性とその程度
2.契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件
3.将来見込まれる一時金の額及びこれに関する契約条件
4.契約締結の経緯、経過した借家期間及び残存期間並びに建物の残存耐用年数
5.貸家及びその敷地の取引慣行並びに取引利回り
6.借家の目的、契約の形式、登記の有無、転借か否かの別及び定期建物賃貸借(借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借をいう。)か否かの別
7.借家権価格
 また、貸家及びその敷地を当該借家人が買い取る場合における貸家及びその敷地の鑑定評価に当たっては、当該貸家及びその敷地が自用の建物及びその敷地となることによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきである。
Ⅲ借地権付建物
1.建物が自用の場合

 借地権付建物で、当該建物を借地権者が使用しているものについての鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。この場合において、前記借地権②ア(ア)から(キ)までに掲げる事項(借地権が定期借地権の場合には、(ア)から(ケ)までに掲げる事項)を総合的に勘案するものとする。
2.建物が賃貸されている場合
 借地権付建物で、当該建物が賃貸されているものについての鑑定評価額は、実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。
 この場合において、前記借地権②ア(ア)から(キ)までに掲げる事項(借地権が定期借地権の場合には、(ア)から(ケ)までに掲げる事項)及び前記Ⅱ1.から7.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
Ⅳ区分所有建物及びその敷地
1.区分所有建物及びその敷地の価格形成要因

 区分所有建物及びその敷地における固有の個別的要因を例示すれば次のとおりである。
(1)区分所有建物が存する一棟の建物及びその敷地に係る個別的要因
①建物に係る要因
ア建築(新築、増改築等又は移転)の年次
イ面積、高さ、構造、材質等
ウ設計、設備等の機能性
エ施工の質と量
オ玄関、集会室等の施設の状態
カ建物の階数
キ建物の用途及び利用の状態
ク維持管理の状態
ケ居住者、店舗等の構成の状態
コ耐震性、耐火性等建物の性能
サ有害な物質の使用の有無及びその状態
②敷地に係る要因
ア敷地の形状及び空地部分の広狭の程度
イ敷地内施設の状態
ウ敷地の規模
エ敷地に関する権利の態様
③建物及びその敷地に係る要因
ア敷地内における建物及び附属施設の配置の状態
イ建物と敷地の規模の対応関係
ウ長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の額
(2)専有部分に係る個別的要因
①階層及び位置
②日照、眺望及び景観の良否
③室内の仕上げ及び維持管理の状態
④専有面積及び間取りの状態
⑤隣接不動産等の利用の状態
⑥エレベーター等の共用施設の利便性の状態
⑦敷地に関する権利の態様及び持分
⑧区分所有者の管理費等の滞納の有無
2.区分所有建物及びその敷地の鑑定評価
(1)専有部分が自用の場合

 区分所有建物及びその敷地で、専有部分を区分所有者が使用しているものについての鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。
 積算価格は、区分所有建物の対象となっている一棟の建物及びその敷地の積算価格を求め、当該積算価格に当該一棟の建物の各階層別及び同一階層内の位置別の効用比により求めた配分率を乗ずることにより求めるものとする。
(2)専有部分が賃貸されている場合
 区分所有建物及びその敷地で、専有部分が賃貸されているものについての鑑定評価額は、実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。
 この場合において、前記Ⅱ1.から7.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

第3節 建物

 建物は、その敷地と結合して有機的に効用を発揮するものであり、建物とその敷地とは密接に関連しており、両者は一体として鑑定評価の対象とされるのが通例であるが、鑑定評価の依頼目的及び条件により、建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価又は建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価がある。
Ⅰ建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価
 この場合の建物の鑑定評価は、その敷地と一体化している状態を前提として、その全体の鑑定評価額の内訳として建物について部分鑑定評価を行うものである。
 この場合における建物の鑑定評価額は、積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
 ただし、複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。
Ⅱ建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価
 この場合の建物の鑑定評価は、一般に特殊価格を求める場合に該当するものであり、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産のうち建物について、その保存等に主眼をおいて行うものであるが、この場合における建物の鑑定評価額は、積算価格を標準として決定するものとする。
Ⅲ借家権
 借家権とは、借地借家法(廃止前の借家法を含む。)が適用される建物の賃借権をいう。
 借家権の取引慣行がある場合における借家権の鑑定評価額は、当事者間の個別的事情を考慮して求めた比準価格を標準とし、自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格を比較考量して決定するものとする。借家権割合が求められる場合は、借家権割合により求めた価格をも比較考量するものとする。この場合において、前記貸家及びその敷地の1.から6.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
 さらに、借家権の価格といわれているものには、賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体に現れるものがある。この場合における借家権の鑑定評価額は、当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額等を加えた額並びに自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格を関連づけて決定するものとする。この場合において当事者間の個別的事情を考慮するものとするほか、前記貸家及びその敷地の1.から6.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

第4節 特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法

Ⅰ各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
 この場合は、基本的に収益還元法のうちDCF法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき、比準価格及び積算価格による検証を行い鑑定評価額を決定する。
Ⅱ民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
 この場合は、通常の市場公開期間より短い期間で売却されるという前提で、原則として比準価格と収益価格を関連づけ、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。なお、比較可能な事例資料が少ない場合は、通常の方法で正常価格を求めた上で、早期売却に伴う減価を行って鑑定評価額を求めることもできる。
Ⅲ会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
 この場合は、原則として事業経営に基づく純収益のうち不動産に帰属する純収益に基づく収益価格を標準とし、比準価格を比較考量の上、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。

第2章 賃料に関する鑑定評価

第1節 宅地

Ⅰ新規賃料を求める場合
1.新規賃料の価格形成要因

 新規賃料固有の価格形成要因の主なものは次のとおりである。
(1)当該地域の賃貸借等の契約慣行
(2)賃貸借等の種類・目的、一時金の授受の有無及びその内容並びに特約事項の有無及びその内容等の新規賃料を求める前提となる契約内容
2.宅地の正常賃料を求める場合
 宅地の正常賃料を求める場合の鑑定評価に当たっては、賃貸借等の契約内容による使用方法に基づく宅地の経済価値に即応する適正な賃料を求めるものとする。
 宅地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料、比準賃料及び配分法に準ずる方法に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合において、純収益を適切に求めることができるときは収益賃料を比較考量して決定するものとする。また、建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益を適切に求めることができるときには、賃貸事業分析法(建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法)で得た宅地の試算賃料も比較考量して決定するものとする。
3.宅地の限定賃料を求める場合
 宅地の限定賃料の鑑定評価額は、隣接宅地の併合使用又は宅地の一部の分割使用をする当該宅地の限定価格を基礎価格として求めた積算賃料及び隣接宅地の併合使用又は宅地の一部の分割使用を前提とする賃貸借等の事例に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合においては、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)隣接宅地の権利の態様
(2)当該事例に係る賃貸借等の契約の内容
Ⅱ継続賃料を求める場合
1.継続賃料の価格形成要因

 継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2)土地価格の推移
(3)公租公課の推移
(4)契約の内容及びそれに関する経緯
(5)賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
 継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
(2)土地価格の推移
(3)賃料に占める純賃料の推移
(4)底地に対する利回りの推移
(5)公租公課の推移
(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
(7)契約の内容及びそれに関する経緯
(8)契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
(9)賃料改定の経緯
 なお、賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新又は借地権の第三者への譲渡を契機とする場合において、更新料又は名義書替料が支払われるときは、これらの額を総合的に勘案して求めるものとする。
3.契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合
 契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合の鑑定評価に当たっては、契約上の条件又は使用目的の変更に伴う宅地及び地上建物の経済価値の増分のうち適切な部分に即応する賃料を前記2.を想定した場合における賃料に加算して決定するものとする。
 この場合においては、前記2.に掲げる事項のほか、特に次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)賃貸借等の態様
(2)契約上の条件又は使用目的の変更内容
(3)条件変更承諾料又は増改築承諾料が支払われるときはこれらの額

第2節 建物及びその敷地

Ⅰ新規賃料を求める場合
1.新規賃料の価格形成要因

 建物及びその敷地の新規賃料固有の価格形成要因は、宅地の新規賃料を求める場合の鑑定評価に準ずるものとする。
2.建物及びその敷地の正常賃料を求める場合
 建物及びその敷地の正常賃料を求める場合の鑑定評価に当たっては、賃貸借の契約内容による使用方法に基づく建物及びその敷地の経済価値に即応する賃料を求めるものとする。
 建物及びその敷地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合において、純収益を適切に求めることができるときは収益賃料を比較考量して決定するものとする。
 なお、建物及びその敷地の一部を対象とする場合の正常賃料の鑑定評価額は、当該建物及びその敷地の全体と当該部分との関連について総合的に比較考量して求めるものとする。
Ⅱ継続賃料を求める場合
 建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の鑑定評価に準ずるものとする。この場合において、各論第2章第1節Ⅱ中「土地価格の推移」とあるのは「土地及び建物価格の推移」と、「底地に対する利回りの推移」とあるのは「建物及びその敷地に対する利回り」と、それぞれ読み替えるものとする。

第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価

第1節 証券化対象不動産の鑑定評価の基本的姿勢

Ⅰ証券化対象不動産の範囲
 この章において「証券化対象不動産」とは、次のいずれかに該当する不動産取引の目的である不動産又は不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益権に係るものを含む。)をいう。
(1)資産の流動化に関する法律に規定する資産の流動化並びに投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資信託に係る不動産取引並びに同法に規定する投資法人が行う不動産取引
(2)不動産特定共同事業法に規定する不動産特定共同事業契約に係る不動産取引
(3)金融商品取引法第2条第1項第5号、第9号(専ら不動産取引を行うことを目的として設置された株式会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定により株式会社として存続する有限会社を含む。)に係るものに限る。)、第14号及び第16号に規定する有価証券並びに同条第2項第1号、第3号及び第5号の規定により有価証券とみなされる権利の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引
 証券化対象不動産の鑑定評価は、この章の定めるところに従って行わなければならない。この場合において、鑑定評価報告書にその旨を記載しなければならない。
 証券化対象不動産以外の不動産の鑑定評価を行う場合にあっても、投資用の賃貸大型不動産の鑑定評価を行う場合その他の投資家及び購入者等の保護の観点から必要と認められる場合には、この章の定めに準じて、鑑定評価を行うよう努めなければならない。
Ⅱ不動産鑑定士の責務
(1)不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価の依頼者(以下単に「依頼者」という。)のみならず広範な投資家等に重大な影響を及ぼすことを考慮するとともに、不動産鑑定評価制度に対する社会的信頼性の確保等について重要な責任を有していることを認識し、証券化対象不動産の鑑定評価の手順について常に最大限の配慮を行いつつ、鑑定評価を行わなければならない。
(2)不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、証券化対象不動産の証券化等が円滑に行なわれるよう配慮しつつ、鑑定評価に係る資料及び手順等を依頼者に説明し、理解を深め、かつ、協力を得るものとする。
 また、証券化対象不動産の鑑定評価書については、依頼者及び証券化対象不動産に係る利害関係者その他の者がその内容を容易に把握・比較することができるようにするため、鑑定評価報告書の記載方法等を工夫し、及び鑑定評価に活用した資料等を明示することができるようにするなど説明責任が十分に果たされるものとしなければならない。
(3)証券化対象不動産の鑑定評価を複数の不動産鑑定士が共同して行う場合にあっては、それぞれの不動産鑑定士の役割を明確にした上で、常に鑑定評価業務全体の情報を共有するなど密接かつ十分な連携の下、すべての不動産鑑定士が一体となって鑑定評価の業務を遂行しなければならない。

第2節 証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件

 証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ2.なお書きに定める要件に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。

第3節 処理計画の策定

Ⅰ処理計画の策定に当たっての確認事項
 処理計画の策定に当たっては、あらかじめ、依頼者に対し、証券化対象不動産の鑑定評価に関する次の事項を確認し、鑑定評価の作業の円滑かつ確実な実施を行うことができるよう適切かつ合理的な処理計画を策定するものとする。この場合において、確認された事項については、処理計画に反映するとともに、当該事項に変更があった場合にあっては、処理計画を変更するものとする。
(1)鑑定評価の依頼目的及び依頼が必要となった背景
(2)対象不動産が第1節Ⅰ(1)、(2)又は(3)のいずれに係るものであるかの別
(3)エンジニアリング・レポート(建築物、設備等及び環境に関する専門的知識を有する者が行った証券化対象不動産の状況に関する調査報告書をいう。以下同じ。)、DCF法等を適用するために必要となる資料その他の資料の主な項目及びその入手時期
(4)エンジニアリング・レポートを作成した者からの説明の有無
(5)対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査の範囲
(6)その他処理計画の策定のために必要な事項
Ⅱ確認事項の記録
 第3節Ⅰ(1)から(6)までの事項の確認を行った場合には、それぞれ次の事項に関する記録を作成し、及び鑑定評価報告書の附属資料として添付しなければならない。
(1)確認を行った年月日
(2)確認を行った不動産鑑定士の氏名
(3)確認の相手方の氏名及び職業
(4)確認の内容及び当該内容の処理計画への反映状況
(5)確認の内容の変更により鑑定評価の作業、内容等の変更をする場合にあっては、その内容
Ⅲ鑑定評価の依頼目的及び依頼者の証券化関係者との関係
 証券化対象不動産については、関係者が多岐にわたり利害関係が複雑であることも多く、証券化対象不動産の鑑定評価の依頼目的及び依頼が必要となった背景等並びに依頼者と証券化対象不動産との利害関係に関する次の事項を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
(1)依頼者が証券化対象不動産の証券化に係る利害関係者(オリジネーター、アレンジャー、アセットマネジャー、レンダー、エクイティ投資家又は特別目的会社・投資法人・ファンド等をいい、以下「証券化関係者」という。)のいずれであるかの別
(2)依頼者と証券化関係者との資本関係又は取引関係の有無及びこれらの関係を有する場合にあっては、その内容
(3)その他依頼者と証券化関係者との特別な利害関係を有する場合にあっては、その内容

第4節 証券化対象不動産の個別的要因の調査等

Ⅰ対象不動産の個別的要因の調査等
 証券化対象不動産の個別的要因の調査等に当たっては、証券化対象不動産の物的・法的確認を確実かつ詳細に行うため、依頼された証券化対象不動産の鑑定評価のための実地調査について、依頼者(依頼者が指定した者を含む。)の立会いの下、対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査を行うとともに、対象不動産の管理者からの聴聞等により権利関係、公法上の規制、アスベスト等の有害物質、耐震性及び増改築等の履歴等に関し鑑定評価に必要な事項を確認しなければならない。
Ⅱ実地調査
 不動産鑑定士は、実地調査に関し、次の事項を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
(1)実地調査を行った年月日
(2)実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
(3)立会人及び対象不動産の管理者の氏名及び職業
(4)実地調査を行った範囲(内覧の有無を含む。)及び実地調査により確認した内容
(5)実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由
Ⅲエンジニアリング・レポートの取扱いと不動産鑑定士が行う調査
(1)証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士は、依頼者に対し当該鑑定評価に際し必要なエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を分析・判断した上で、鑑定評価に活用しなければならない。ただし、エンジニアリング・レポートの提出がない場合又はその記載された内容が鑑定評価に活用する資料として不十分であると認められる場合には、エンジニアリング・レポートに代わるものとして不動産鑑定士が調査を行うなど鑑定評価を適切に行うため対応するものとし、対応した内容及びそれが適切であると判断した理由について、鑑定評価報告書に記載しなければならない。
(2)エンジニアリング・レポートの提出がない場合又はその記載されている内容が不十分である場合として想定される場合を例示すれば、既に鑑定評価が行われたことがある証券化対象不動産の再評価をする場合、証券化対象不動産が更地である場合(建物を取り壊す予定である場合を含む。)等がある。
(3)エンジニアリング・レポートの内容を鑑定評価に活用するか否かの検討に当たっては、その判断及び根拠について、鑑定評価報告書に記載しなければならない。この場合においては、少なくとも次の表の項目ごとに、それぞれ同表に掲げる内容を鑑定評価報告書に記載しなければならない。この場合における鑑定評価報告書の様式の例は、別表1のとおりとする。なお、(1)ただし書きの場合においても、同様とする。

「項目」:「内容」

「エンジニアリング・レポートの基本的属性」:
・エンジニアリング・レポートの作成者の名称等
・エンジニアリング・レポートの調査が行われた日及び作成された日

「エンジニアリング・レポートの入手経緯、対応方針等」:
・入手先(氏名及び職業等)
・入手した日
・エンジニアリング・レポートの作成者からの説明の有無等
・入手したエンジニアリング・レポートについて鑑定評価を行う上での対応方針等

「鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する調査」:
次に掲げる専門性の高い個別的要因に関する調査について、エンジニアリング・レポートを活用するか又は不動産鑑定士の調査を実施(不動産鑑定士が他の専門家へ調査を依頼する場合を含む。)するかの別
・公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む。)
・修繕計画
・再調達価格
・有害な物質(アスベスト等)に係る建物環境
・土壌汚染
・地震リスク
・耐震性
・地下埋設物

「鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する調査についての不動産鑑定士の判断」:
専門性の高い個別的要因に関する調査に関する対応について、エンジニアリング・レポートの記載内容を活用した場合、不動産鑑定士の調査で対応した場合等の内容、根拠等

(4)エンジニアリング・レポートについては、不動産証券化市場の環境の変化に対応してその内容の改善・充実が図られていくことにかんがみ、エンジニアリング・レポートを作成する者との密接な連携を図りつつ、常に自らのエンジニアリング・レポートに関する知識・理解を深めるための研鑽に努めなければならない。

第5節 DCF法の適用等

 証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。この場合において、併せて直接還元法を適用することにより検証を行うことが適切である。
ⅠDCF法の適用過程等の明確化
(1)DCF法の適用に当たっては、DCF法による収益価格を求める際に活用する資料を次に定める区分に応じて、その妥当性や判断の根拠等を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
①依頼者から入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料をそのまま活用する場合
②依頼者から入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料に修正等を加える場合
③自らが入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料を活用する場合
(2)DCF法による収益価格を求める場合に当たっては、最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等査定した個々の項目等に関する説明に加え、それらを採用して収益価格を求める過程及びその理由について、経済事情の変動の可能性、具体的に検証した事例及び論理的な整合性等を明確にしつつ、鑑定評価報告書に記載しなければならない。また、複数の不動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、DCF法の適用において活用する最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等について対象不動産相互間の論理的な整合性を図らなければならない。
(3)鑑定評価報告書には、DCF法で査定した収益価格(直接還元法による検証を含む。)と原価法及び取引事例比較法等で求めた試算価格との関連について明確にしつつ、鑑定評価額を決定した理由について記載しなければならない。
(4)DCF法の適用については、今後、さらなる精緻化に向けて自己研鑽に努めることにより、説明責任の向上を図る必要がある。
ⅡDCF法の収益費用項目の統一等
(1)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、証券化対象不動産に係る収益又は費用の額につき、連続する複数の期間ごとに、次の表の項目(以下「収益費用項目」という。)に区分して鑑定評価報告書に記載しなければならない(収益費用項目ごとに、記載した数値の積算内訳等を付記するものとする)。この場合において、同表の項目の欄に掲げる項目の定義は、それぞれ同表の定義の欄に掲げる定義のとおりとする。

「項目」:「定義」

(運営収益)
「貸室賃料収入」:「対象不動産の全部又は貸室部分について賃貸又は運営委託をすることにより経常的に得られる収入(満室想定)」
「共益費収入」:「対象不動産の維持管理・運営において経常的に要する費用(電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用を含む)のうち、共用部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定)」
「水道光熱費収入」:「対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用のうち、貸室部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定)」
「駐車場収入」:「対象不動産に附属する駐車場をテナント等に賃貸することによって得られる収入及び駐車場を時間貸しすることによって得られる収入」
「その他収入」:「その他看板、アンテナ、自動販売機等の施設設置料、礼金・更新料等の返還を要しない一時金等の収入」
「空室等損失」:「各収入について空室や入替期間等の発生予測に基づく減少分」
「貸倒れ損失」:「各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分」

(運営費用)
「維持管理費」:「建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的に要する費用」
「水道光熱費」:「対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用」
「修繕費」:「対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復するために経常的に要する費用」
「プロパティマネジメントフィー」:「対象不動産の管理業務に係る経費」
「テナント募集費用等」:「新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用及びテナントの賃貸借契約の更新や再契約業務に要する費用等」
「公租公課」:「固定資産税(土地・建物・償却資産)、都市計画税(土地・建物)」
「損害保険料」:「対象不動産及び附属設備に係る火災保険、対象不動産の欠陥や管理上の事故による第三者等の損害を担保する賠償責任保険等の料金」

「その他費用」:「その他支払地代、道路占用使用料等の費用」

「運営純収益」:「運営収益から運営費用を控除して得た額」
「一時金の運用益」:「預り金的性格を有する保証金等の運用益」
「資本的支出」:「対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出」
「純収益」:「運営純収益に一時金の運用益を加算し資本的支出を控除した額」

(2)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、収益費用項目及びその定義について依頼者に提示・説明した上で必要な資料を入手するとともに、収益費用項目ごとに定められた定義に該当していることを確認しなければならない。
(3)DCF法を適用する際の鑑定評価報告書の様式の例は、別表2のとおりとする。証券化対象不動産の用途、類型等に応じて、実務面での適合を工夫する場合は、同表2に必要な修正を加えるものとする。

附則

附則(平成14年7月3日全部改正)
 この不動産鑑定評価基準は、平成15年1月1日から施行する。

附則(平成19年4月2日一部改正)
1.この基準は、平成19年7月1日から施行する。
2.不動産鑑定士補は、改正後の基準の適用については、不動産鑑定士とみなす。
3.国土交通省は、毎年一回程度、この通知による改正後の不動産鑑定評価基準に基づく実務の状況について検討を加え必要があると認めるときには、その結果に基づいてこの基準の改訂など所要の措置を講ずるものとする。

附則(平成21年8月28日一部改正)
 この改正は、平成22年1月1日から施行し、改正後の不動産鑑定評価基準は、同日以後に契約を締結する鑑定評価から適用する。

附則(平成26年5月1日一部改正)
 この改正は、平成26年11月1日から施行し、改正後の不動産鑑定評価基準は、同日以後に契約を締結する鑑定評価から適用する。

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