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箸の日

 8月4日の今日は、箸を語呂合わせしたもの。正しい箸の持ち方から食文化の見直しまで含め、箸を考えようという民俗学研究家の提唱により、わりばし組合が1975年(昭和50年)に制定とのことである。
  11月11日も箸の日だという。11月11日は箸が二膳並んでいるように見えることから、箸国際学術シンポジウムが2015年(平成27年)に制定。

 今日の話題はどちらかというと11月11日に書くべきことかもしれない。

 フランス語で箸はBaguettesである。フランスにはベトナム人が多くいる。バックパッカー旅行時にフランス料理に飽きることはなかったが、ときどき東洋的なものも食べたくなることもある。そんなときにはベトナム人の経営している惣菜屋がフランスの各地にあり重宝した。
 私はチャーハンが好きなのだが、このベトナム惣菜屋で食べたチャーハンが、重宝ついでに印象に残っている。たしかボルドーに行ったときではなかったか・・・ここで食べた揚げ春巻きとチャーハンを日本へ帰ってきてからも求めたが、フランスで食べたときほどの感動はなかった。まぁ、それはともかく、そのベトナム人の店主から箸はBaguettesだと教わった。あの長細いフランスパンのこともbaguetだし、箸もBaguettes(2つ一組なので複数でいう、だからメガネはlunettesだ)で、フランス人はアバウトだ、などと話したことを覚えている。

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 アジアといっても箸を使わない国もある。私が直接見て触れたのは中国・香港・台湾は筷子(kuài・zi)を使う、韓国もあの銀色の箸(젓가락)だ。ベトナムも上記のように箸で、ミャンマーに出張したときには、箸もあるにはあったが、スプーン主体であるという印象を受けた、、、結局はっきりとはわからなかったが、そもそも今は西欧にも箸が広まったので(器用に箸を使ってラーメンを食べる姿をよくみる)この問題を調べてもたいして面白くない。
    韓国だけ金属製であるのは、中世の王家で使われたことからくるとのこと。裏切りと陰謀の時代の毒味のためと書かれている。(フランス語のWiki)

Seules les baguettes coréennes sont métalliques. La raison de cette singularité vient du Moyen-Âge, où l’on eut l’idée de baguettes en argent, d’abord destinées au roi. Une des propriétés chimique de l’argent étant qu’il change de couleur au contact de certaines substances, l’utilisation de baguettes en argent permettait de détecter la présence de poison dans les aliments ; les complots et autres trahisons étant monnaie courante à cette époque.

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ちなみに、日本には小野妹子が伝えたとのことである。ということは朝鮮経由でなくて、唐からなのだろう。
さて、箸に古来から使われているためいろいろな話があるのだが、
明の林熙春の詩の一節にこうある。

司马谈兵旧,昆明节制新。驱车问疾苦,借箸展经纶。
夜静苍山月,天回洱海春。汉家悬上赏,应不吝麒麟。

浅学な私の解説は不要だが
一応 後学のためメモ程度に。

司馬談は司馬遷の父である
经纶とは経綸とのことで
中江兆民の本で有名だが、政治を論じることであるが、ここでは戦の話であろう。

”借箸”は
張良が劉邦に論じるときに箸を置いて理由を
挙げつらった故事による。

麒麟は平和の象徴である瑞獣。
キリンではない。ここでは駿馬のことを指し
故事に
”騏驎も老いては駑馬(どば)に劣る”
という。

おそらく、司馬談が司馬遷に歴史書を引き継いだことに掛けて、老いては素晴らしい景色と平和をとなえ第一線から退く様を感慨とともに綴った詩なのであろう。
箸は中国語で筷子の古語なのである。(こういう例はよくあり、蒟蒻がそうである)

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江戸の吉原の文化にも箸にまつわる話がある。
吉原に通う男と遊女の間にはいろいろな決まりごとがあるわけだが、
はじめての店に通うことを”初会”という。二度目は裏という

裏の夜は四五寸近く近く来て座り

2回めの登楼では同じ遊女が相手の出るのが廓の習わしで、初会よりも親近感をもっておもてなしをするのである。さて三会目になるとどうなるのか
これを”なじみ”といい、”国府より手触りのいい三会目”というが、国府は薩摩刻みという最高級品のタバコを指す。ちょっと艷がかかった話になってくる。実は三度目ともなるとそのお客専用の箸が用意され、箸袋には客の紋や名前も記されるという歓待ぶりである。

三会目 箸一膳の主になり

このように箸は(生活→)文化に根差しているわけだ。

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 箸は、ただ竹を削ったものから、木材に凝ったものまで ピンきりだ。
それこそ黒檀が、とか、利休はメープル(カエデ)を使ったとか、、、形状については七角形がよいとか、表面は輪島塗がよいとかいろいろ云われる。お料理を、刺す、切る、掬うのいずれもできるので、食器の粋を極めたといった感じがする。
フランスの記事では、中国と日本の微妙な違いをうまく書けている。

En Asie, on utilise les baguettes. Il y en a de toutes sortes, de diverses matières: bois divers, bambou, peintes, natures, laquées, de couleur unie ou avec décorations... ce n'est pas le choix qui manque... Les chinoises sont un peu différentes des japonaises: elles ont le côté que l'on tient un peu plus gros et l'extrémité même est carrée.
●ce n'est pas le choix qui manque 欠けることを選べない→よりどりみどり
●elles ont le côté que ... elles は=Les chinoises(中国の箸)を指す。
 〜という側面がある
● l'extrémité même est carrée... 先端が四角い 日本の箸は先端に行くほど細いことの逆の意

さらにこの記事ではロラン・バルトを引き合いに出す。
ロラン・バルトは記号論の人という印象だが、実に独特な日本論を書いている。それが”象徴の帝国”である。

その本のなかで、箸についてロラン・バルトはつぎのようにいう、
”箸は西洋のナイフ(そして、猟師の武器そのものであるフォークに)対立する。箸は切断し、ぐいと掴まえて手足をバラバラにして突きさすという動作を拒否する食器具である。箸という存在があるために、食べ物は人々が暴行を加える餌食(たとえば、人々のむさぼりつく肉)ではなくなって、見事な調和をもって変換された物質となる。箸は食べ物を、あらかじめ食べやすく按配された小鳥の餌とし、ご飯を牛乳の波とする。箸は母性そのもものように倦むことなく、小鳥のくちばしの動作へと人をみちびく、わたしたち西洋人の食事の習慣には相もかわらず、槍と刀で武装した狩猟の動作しかないのだが・・”

 箸は、たとえば、”切るのでなく、分けるのである”という。それは、食べるためではなく、食事を用意する料理人の箸使いによく現れる。箸は突き刺したり、切ったり、引き裂くのでなくて、その代わりに、持ち上げたり、回したり、運んだりするだけなのだ。なぜなら箸は、我々の食器のように食べものに暴力を振るう(刺す、切る、抉る)のではなく、少しずつほぐすのだ。

c'est là tout un comportement à l'égard de la nourriture; on le voit bien aux longues baguettes du cuisinier, qui servent, non à manger, mais à préparer les aliments: jamais l'instrument ne perce, ne coupe, ne fend, ne blesse mais seulement prélève, retourne, transporte. Car la baguette (troisième fonction), pour diviser, sépare, écarte, chipote, au lieu d'agripper, à la façon de nos couverts; elle ne violente jamais l'aliment; ou bien elle le démêle peu à peu [...]

なんだか、箸を野蛮に使えなくなってくるな・・・
心して使うことにしよう。
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<来年の宿題>
・ハミルトンの四元数について
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●見出しの画像
 スネークウッドを使った箸(画像はお借りしました)
 (贈答用かな・・・)

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