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個人タクシーの日

 個人タクシーの運転手になるには、年齢によるが、結構たいへんな条件だ。35歳以下であれば、タクシー会社に10年以上勤務していて、さらに10年間無事故無違反でなくてはならない。40歳未満では、申請営業エリアで10年間タクシーない旅客自動車(バスなど)の仕事をする、また資金的な条件もクリアしなくてはならない。200万ともいわれる。

 中野でお店を開いているときのお客様で、タクシーの運転手さんがいた。
ちょっと闇が深く、いつも泥酔しては、追い返されるようなお客様であったが、素面(しらふ)のうちに話をしたことがある。↑の条件も、そのお客様からきいたものであるから、正確かどうかはわからない。
 そのお客様、家賃を3ヶ月滞納しているとのこと。え?こんなとこで飲みに来て大丈夫? 自分の店の払いをはからずも心配した。パチンコに勝ったから払えるというのをきいてホッとしてしまった。

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今日は種田山頭火の誕生日である。
山頭火、10歳のとき、母が井戸で投身自殺をした。井戸は埋められた。
父はこのとき、別府で芸者をあげて遊蕩にふけっていた。
その悲しみのとらえどころもなく、その翌年に今度は末弟(山頭火は5人兄弟)が高熱に喘いだ。村医者に駆けつけるも留守、、、何度も手拭いを取り替えながら待つ、夜八時になって、やっと医者が来た頃には虫の息であった。まもなく息を引き取った。
自分の孤独を引きずって、それを埋めるように勉学に励み、成績優秀であった。早稲田大学に合格し上京。しかし東京の生活に馴染めなかった。ある日下宿に帰ると、姉が急死したとの知らせが、、、呪われた血を感じてやりきれず、はじめて酒を口にする。
やがて心を病み、日露戦争の勝利に湧く早稲田大学に退学届を出した。
故郷に帰った山頭火を待っていたのは、倒産寸前の種田酒造と、それを救う政略結婚であった。妻になる咲野にもまた不幸のはじまりの祝宴である。
心の闇は更に深く、酒に逃げた。不眠症になった。眠ろうと酒を飲む。苦しくもがく、また酒を飲む。けれども眠れない。。。。

大きな蝶を殺したり真夜中

大正5年、膨大な借金を残して、父が夜逃げする。
自分も逃げるしかなくなった山頭火、碧梧桐門下の俳人を頼って熊本に移り住み、古本屋「雅楽多」を開業。だが振るわない。おまけに弟の二郎が居候していたが、岩国で自殺した。弟の亡骸を直視できそうになく、逡巡し、意を決して岩国に向かったが、すでに荼毘に付されたあとだった。骨壷の前で崩れ落ちた。弟も母を同じく喪失し、自分以上に苦しんでいたのだ。

またあふまじき弟にわかれ泥濘(でいねい)ありく

山頭火は木村緑平と出会い、少し安堵の気持ちも覚えた。緑平は大牟田の開業医かつ俳人であった。大牟田に遊びにこないかという誘いに乗る。とりとめのない話でもしての帰り、大牟田駅で赤提灯をみ、咄嗟に入ってしまう。
さんざん飲んで勘定が足りない。。。無銭飲食のかどで警察にご厄介になり、なんと緑平に頼る。緑平は山頭火を引き取り不足分を払い、熊本に帰す。”落ちるところまで落ちた気分です。” 山頭火が緑平に送った手紙だ。

熊本にいても埒があかず、逃げ出して東京に単身赴き、やがて東京にもいられなくなり、熊本に帰る。不毛だ。その暗闇の穴を酒が常に満たしていた。
電車に引かれようと酩酊して自殺をはかったところ、たまたま居合わせた木庭徳治によって、報恩寺に捨て置かれる。禅寺で断酒を続けること1年あまり、山頭火はこのときに自由律俳句に目覚める。種田正一が山頭火になった瞬間だ。そして、歩き始める。ただ歩いて、そして歩く。

分け入っても分け入っても青い山

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画家ピエール・デクールは、山頭火の句に自分の描きたかったものを見る。

" A pas comptés, j'oublie d'avancer à chaque pas et je ne pense pas à reculer.
A pas comptés, il n'y a ni passé ni présent ni direction
et chaque pas est un tout…"
私訳)数えないんだ。前進の一歩も後退の一歩もない。その一歩は一歩なんだ。過去も現在も方向もない。一歩が全部なんだ。

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ひとり山越えてまた山

山頭火の句に触れると、底知れない寂しさがある。
でも私はその中に、ほんの少しだが、笑も見いだせる。滑稽な笑い、いびつではあるが、また山だぜ、、、やれやれ みたいな。
それも、また句の闇と静寂の奥底に沈んでいってしまうのである。

落ちるところまで落ちた人が見る風景みたいなものがあるのであろう。
そんな闇を少し覗く日としよう。

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数えるの苦手なのに、数えるのがいまや商売。
参考Note:タクシーの日

数学で煙に巻いて逃げるように仕事しているが、なんとか落ちていない。
自分が個人タクシーを開業すると闇がみえる。
今日も誰も乗車してくれない・・・・
埠頭に車を止めて、嘆息している自分がはっきりと見える
走っても一人・・・・みたいに

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<来年の宿題>
・山頭火の句
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●見出しの画像
種田山頭火(画像はお借りしました)






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