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懐古


ぱたりと僕の腕からはがれ落ちた君。
一夏を謳歌した命。
初めて羽を広げた時も、
あの女の子に振られた時も、
運命のあの子と出会った時も、
僕はみんな知ってる。
君は僕を信頼してくれて、
いつでもその細い腕を、僕にしがみつかせてた。
君の歌声は力強くて、
毎日元気をもらってた。
相棒よ、ありがとう。


思ってもみなかった。
こんなにストンと力が抜けていくなんて。
初めて寝そべって空を見上げる。
あの頃はどこまでも青かった。
今じゃ真っ赤に染まっている。
あの子がどこに行ってしまったのかもわからない。
あの頃のように歌って呼び寄せることもかなわない。
その時さわさわと葉っぱが揺れた。
今までよりもずっと高いところで。
僕がいつもいた場所は、
ずっと君の元だったんだと気付いた。
相棒よ、達者でな。



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