見出し画像

【読書感想文】 「逃げ恥」にみる結婚の経済学 


手に取ったきっかけ

たまたま、著者の是枝さんが参加している会に出席した際に、参加者に配られていたものを頂いた。ちょうど私が11月に結婚したこともあり、興味があったので読んでみた。

ざっくり感想

結婚直後ということもあり、共働きや育児などの金銭周りについての具体的な話がいっぱい読めたのがとても参考になった。

一方で、2017年出版ということもあってか、「家事をしない男性を夫に持つ妻」向けに書かれた記述が目立つ。特に白河さんの記述部分は「(家事負担への理解のない男性に苦しむ)女性を応援する」という色が強く、「家事をメインで担当する夫」という私の立場では、ちょっと引っかかる箇所も多い印象。

私の立場もメモしておく。

都内在住の28歳男性。フリーランスWebエンジニア。複数の仕事を持っているが、平均時給は4000-5000円/hくらい。土日祝も含めてだいたい1日平均5時間くらい稼働。2022年11月に結婚。妻は建設系の正社員で設計などを担当。妻は現場への出張や残業が多く、私は稼働時間も短く、基本リモート作業なので、家事は私がメインで担当している。

家事をメインで担当している男性という立場から、本書の感想を書いてみる。

良かった点① 夫婦共働きのメリットが数字で分かった

「世帯年収が同じなら、税負担は共働きの方が少ない。例えば世帯年収800万の場合、共働きの方が29.2万円税負担が減る」

「妻が出産を機に仕事を辞めることの機会費用は8028万。仮に夫の育休取得で出世が遠のき年収が150万下がるとしても、妻の正社員を維持することによる利益の方が大きい」

など、夫婦共働きのメリットが具体的な数字で語られているのがよかった。

「妻が正規雇用であることで離婚後の生活も守られる」「夫婦が両方働いていることで、夫が途中でキャリアアップのための訓練期間を挟むことも楽になる」などの話題も参考になった。

妻のキャリア継続を支えよう!という具体的なモチベーションにつながる記載が満載。「出産後は、時短勤務にしてあげた方がいいのかな・・・?」などと思っていた自分もいたが、この記載を踏まえて考え直したい。


良かった点② 育児に関するお金が分かった

仮に子供が生まれた場合、自分が主に世話をするのか、妻が主に世話をするのか、保育園などに外注するのか・・・?などの選択肢があるが、それぞれの金銭的な影響を多少想像できたのが良かった。

フリーランスなら、時間の融通が効く上、「正規雇用の継続性」を守る必要もないので、私が子供の世話をする手もあるか・・・?と考えていたが、改めて認可保育所や育休制度の圧倒的な金銭的メリットを実感した。認可保育所の運営費は、0歳児だと一人当たり20.6万円かかっているのに、6-8割くらいが国・自治体負担で賄われているのね・・・。10万ちょいのケアを公費で担ってもらえると思ったらそりゃお得だわ。

ケア労働は金銭的価値として見えにくいところもあり、こういう風に金額換算してもらえると考えやすくて助かる。


違和感があった点① 専業主婦の給料額の計算

すでにネット上で指摘され尽くした話題だと思うけど、一応。

友達の小山さんが2021年くらいに「逃げ恥」の月収換算をボロクソに批判する(非常に周りに紹介しづらい)記事を書いている。昨今のTwitter(の男女論界隈)ではこの認識が広がっているように見受けられる。

批判の焦点は、家事労働「1日7時間」という推定にある。統計的に見ても、育児を除く家事の時間はだいたい毎日1,2時間程度だ(私自身が家事にかけている時間もそのくらいだ)。都内であれば、Amazon Freshなどの宅配買い物サービスなどを利用すれば買い物時間は削減できるし、noshなどの宅食サービスを利用すれば料理時間も圧縮できる。

総務省 令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の要約

にも関わらず、本書では(育児時間を含めた)1日7時間という数字を、さも平均的な家事労働者の稼働時間として引いている。

「逃げ恥」のみくりは「ベッドのシーツも毎日新しいものに替えられ、部屋はいつでもピカピカ。ホテルで暮らすような生活ぶり p43」の家事を提供しているので、通常の家事労働者よりも多くの作業を行っていたはずだし、平匡とみくりの関係に関して言えば、妥当な金額だと言えなくもないだろうと思う。実際に7時間労働を要求しているので。

が、この数字を平均的な家事労働者の労働の対価として引くのはやはりいささかミスリーディングだなと思った(本書のメインの読者層に対して自信を与える、という目的に合わせてわざとやっているのだとは思うけど)。

余談だけど、「若い世代ほど、相対的に「月19.4万円」が魅力的に写っていたようです p29」とか、マイナビウーマンのアンケートの結果で「24-34歳の働く男女に対して(中略)聞いたところ、女性では月約14万円、男性では月約12万円という結果だった p29」という記述は面白かった。やっぱ世代差なんかな・・・。

全体的に「専業主婦をするならこのくらいのお金はもらえるべき!」という主張が何度か出てくるんだけど、その金額が効用ではなく機会費用から算出されるのが気になる。それ無能ほど同じ仕事をしてるのに給料が上がるやつじゃない??(ITエンジニア界隈あるある


他、書こうと思ったけど面倒くさくなったこと

  • p146に「妻の機会費用を1時間あたり1,383円とした場合、「妻がもらうべき給与相当額」が「夫の手取り収入の半分」と釣り合うための夫の家事・育児の分担割合」の表が出てきて面白い。この表だと、夫の年収が1400万で初めて夫の家事・育児の分担負担が0%でも釣り合うようになる

    • 夫の「手取り」から半分を払うというルールと、「機会費用」で算出してるところにミソがあると思う。

    • つくづく、「十分に能力がある女性」が「個人に(その手取りから)養ってもらう」というロールモデルは崩壊したんだな・・・と思った。

      • 「自分の時間が1時間あたり1,383円で売れる」女性が、専業主婦をやる経済合理性が全然なくなってるんだなと思った

      • 「家に対して給与を払う」じゃなくて「自分の手取りから人を雇う」という枠組みで主婦業を理解されるとそらきついよなぁ

  • 第二章周りで解説される日本の結婚事情を読むと、やっぱ「同類婚志向(年齢が似ている人と結婚したい)+上昇婚(年収が上の人と結婚したい)」の組み合わせが諸悪の根源なんやな・・・とは思った。

    • こうしてみると歳の差婚が経済合理的だなと思う

      • お金を持っている顧客(=年上の男性)に、学生の時期とかの「自分の時間が1時間あたり1,383円で売れ」ない時間を売る・・・という条件でやっと専業主婦の経済合理性が生まれるよなと



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?