第18回 ガールズ・ウォー


「◯◯女子」という言い方が嫌いである。
カメラ女子、大人女子、腐女子から女子会に至るまで、なぜ女性がなにかやるとすぐにカテゴライズしようとするのだろう。男性だけの飲み会を「男子会」とは言わないだろうが。そういえば「歴女」というのもあった。歴史マニアの男性を「歴男」とは決して言わないように、男性がやることに関しては個々の問題だが、こと女性が何かをやると「女子」という一括りにまとめるという風潮が、以前からこの国には目立つ。
そもそもこの「女子」という言い方はいつからこんなにメジャーになったのか。どことなく「女子供」というニュアンスが含まれているこの言葉にも、あまり良い印象を持てないのだが。特に21世紀に入ってからは、いたるところで「◯◯女子」という言い方が目に入るようになった。女性が両義的な意味を込めて、幾分自嘲気味にこの言い方を用いる理由はわかる。ある種のエクスキューズとしてわざとこういう言葉を使わざるを得ないところが、現代社会における女性の生き辛さを象徴していると言えないでもない。女性「なのに」カメラが好きなんだ、いい成人女性「のくせに」フリルの付いた服なんて着ちゃって、などなど。

女の子なら100%好きなんだろうと思われがちな着せ替え人形というものに、興味がない子供だった。誰かから贈られたリカちゃんも持ってはいたが、もっぱら怪獣のソフビに夢中になっていたため、リカちゃんは放ったらかしだった。かわいいものやきれいなもの自体は大好きなので、今思えばリカちゃんを着せ替えるより自分が着ることに興味があったということなのだが。
おもちゃ売り場は今でも「男の子用」と「女の子用」に分かれている。ガンプラやラジコンカー、ゲームソフトなどの男の子用のコーナーは青系やダークな色合いのものが多く、リカちゃんやジェニーがいるパステルカラーの女の子用コーナーとはあきらかに一線を画している。
そこには暗黙の了解として、女性が好むものと男性が好むものとを分けようとする社会の構造があり、それはこうした日常の様々な場面での刷り込みとなっている。実際女の子でも働くクルマが好きという子はいるだろうし、男の子でもリカちゃんで遊びたい子はいるだろう。でもいつのまにかそれは、「女のくせに」とか「男のくせに」という抑圧に潰されて、無難な色分けに収まってしまう。それは大人たちの価値観を無条件に信じる子供自身からの攻撃にもつながっているため、学校という閉鎖空間では余計にその抑圧が強い。男の子がフリルのついたピンク色の服を着ていれば「女みたい」とからかわれ、女の子が格闘ゲームでダントツに強ければそれはそれでいじめの対象となるだろう。
女性男性それぞれの多数派の好みはそう分けられるにしても、それ以外のいろんな好みの人もグラデーションのように存在するのに、そのような個人差はないもののように色分けする。それから逸脱したものに関しては、それをまたひとまとめにくくることで安心する。
怪獣やメカが好きな人間がフリルやリボンもピンク色も大好きでいいではないか。嗜好などというものは、そう簡単にくくれるようなものではないのだ。

少女趣味という言葉があるが、これも「いい歳をして」というような意味で揶揄するときに使われることが多い。試しに辞書を引いてみると、"思春期の女性に共通してみられる好み。感傷的で甘美な情緒を好む傾向をいう"とあるが、思春期と限定しているところも、大人になってそんなではみっともないぞというような視点を感じて気持ち悪い。
少女趣味、大いに結構。未だ成熟していない過渡期にある感性のみが持つ、鋭く柔軟な美意識だ。
この連載の冒頭に書いてあるように、年齢性別を問わず「少女」は存在する。80歳の女性でも45歳の男性でも、少女性をいだくことは可能なのだ。別にセーラー服に前髪ぱっつんでなくても、いくらでも少女たり得る。
言うなればそのような定義から逃げ続ける存在こそが「少女」と言ってもいいのかもしれない。


登場した言葉:「腐女子」
→誰が最初に言い出したのかはよくわかっていないようだが、もともとの「やおい」からして自嘲気味な意味合いである。まあそれも含めて一種の高度な遊びと考えるが。
今回のBGM:「HEDWIG AND THE ANGRYINCH」
→同名の映画(元々はロックミュージカル)のサントラから「Wig in the Box」を。好きなら好きでいいじゃない。わたしたちはなりたいものになれる。

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精神科医/元法医学教室助手/少女批評家/Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション
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