第118回 ラッキー&ヘブン


今年は丑年。
なぜか未だにこの十二支というのは、我々の生活の中に根強く浸透している。年賀状はもちろんのこと、年明けにはそこら中に干支をモチーフに使ったディスプレイが現れる。意外と重宝するのが年齢だ。相手に何歳ですかとダイレクトに尋ねるのは憚られる場合でも、「何年(なにどし)生まれですか?」とは比較的聞きやすい。そうして返ってきた返事から12年毎に予想すれば、おおよそ年齢はわかる。

十二支の歴史はかなり古い。そもそも殷(商)の時代には既に中国で使われていたというのだから相当だ。10種類からなる十干と合わせて日付を表していたが、後の時代になると月や年にも使われるようになった。十二支を「えと」と呼ぶことが多いが、本来「えと=干支」とは十二支と十干を合わせた60を周期とする数詞のことである。
漢代には1日を十二支に区分するようになり、後漢代にはそれに12種類の動物を当てはめるようになった。なぜ十二支に十二獣が結ぶついたのかはよくわかっていないらしい。
日本に暦としての十二支の概念が伝わったのは、古墳時代から飛鳥時代にかけてというから、こちらもかなり古いといえよう。
十二支は日本と中国だけでなく、韓国、タイ、ベトナム、モンゴル、そしてインドやアラビア、ロシアとベラルーシにまで存在している。その土地柄を反映して、微妙に動物のラインナップが異なるのが面白い。十二支に猫が入っていない理由を描いた民話が有名だが、タイやベトナムでは兎の代わりに猫がメンバーに入っている。中国では猪という漢字自体豚のことであり、ベトナムは牛ではなく水牛、モンゴルでは虎ではなく豹だそうだ。
いずれにせよ自分の生まれ年の動物を縁起の良いものとして、それにちなんだアイテムを身に着ける風習は現代でも行われている。

幸運の動物というと何を思い浮かべるだろうか。
豚は多くの国や地域で幸運の動物とされてきた。多産が富を増やす象徴とされたのだろう。豚の貯金箱もお金を増やす(実際は貯まるだけだが)という意味で人気がある。ドイツでは幸運の豚”グリュックシュバイン”のお菓子を、年始に贈るそうだ。
仏教国では象が大事にされており、インドではガネーシャという神様(正確には象そのものではなく象の頭)までいて非常に人気がある。
変わったところでは、古代ギリシャで鯉が良い縁談を招くとされたそうだが、まさか鯉=恋にかけたわけではあるまいし、なぜだ。今でも南欧では鯉は幸運のアイテムらしい。
兎はイギリスやアメリカで縁起が良いと考えられている。月の初めに「Rabbit」と3回唱えると幸運を呼ぶという。兎の後脚には不思議な力が宿るとしてお守りにするが、後脚を切り取られる兎にとってはたまったものではないだろう。

ある地域では幸運の動物でも、別の地域に行くと途端に悪魔の使いとして忌み嫌われることもある。
猫はその最たるもので、キリスト教下の中世ヨーロッパでは魔女の使いとして迫害されたが、古代エジプトでは神様として崇められていた。同じヨーロッパでも黒猫が前を横切ると幸運をもたらすと言われることもあり、げんきんなものである。
同様な存在として蝙蝠がいる。黒猫と同様に悪魔の使いとされた蝙蝠だが、日本では黒猫も蝙蝠も元来幸運の動物である。蝙蝠は中国でも長寿を表し縁起の良い動物とされている。日本ではごくわずかだが、蝙蝠を家紋としている家もある。
鴉もまた西欧では不吉な生き物扱いで、黒い生き物はみんな不吉なのかと思わず突っ込みたくなってしまう。日本ではなんといっても八咫烏、3本足の鴉はサッカー日本代表のエンブレムに使用されて知った方も多いだろう。神武天皇を導いた鴉が3本足であったと伝えられているが、古代中国でも3本足の鴉が太陽の中に住んでいるとされていた。熊野大社のある熊野三山では八咫烏が神の使いとして祀られている。

干支でいうところの丙午の年に生まれた女性は、気性が荒く配偶者の運気を下げるという迷信がある。この18世紀頃からの迷信により丙午生まれが疎まれるようになり、1966年の出生率にも大幅に影響を与えるほどであったとのこと。
気が強くて何が悪い。自分の運気など自分で守ればよい。
丑年だからといって鷹揚に構えているばかりではなく、やるべきときには素早く動く。そう、猫のように。
やはり猫年はあったほうがよいのではと思う新年なのであった。


登場した家紋:蝙蝠紋
→長崎のカステラ屋、福砂屋のマークがこれである。カステラはもちろん美味しいが、オランダケーキというココア味のカステラが大好物。
今回のBGM:「ツァラトゥストラはかく語りき」リヒャルト・シュトラウス作曲 ルドルフ・ケンぺ指揮/ドレスデン・シュターツカペレ演奏
→『2001年宇宙の旅』の冒頭で使われて大変有名になったが、映画に使用されたのはカラヤン指揮のウィーンフィルの演奏だったにもかかわらず、最初に発売されたサウンドトラック盤にはベーム指揮のベルリンフィルの演奏が収録されてたそうだ。


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