第83回 オール・ザット・ジャズ


ウィッグを手にして私は最強になった。
いや別に何かと戦うわけではないのだが、ファッションのコーディネート的に無敵となったのだ。

もう随分前になるが、はじめてウィッグを買って被ってみたとき、あまりにも似合わず不自然で思わず笑ってしまった。単に自分が見慣れていなかったというのもあるのだが、ウィッグのチョイス自体がいけなかった。チェリーレッドに近い濃いブラウンの、ゆるいウエーブがかかったロングのウィッグだったのだ。今にして思えばそのウィッグだって、全身のコーディネート次第でいかようにも着こなすことができたかもしれない。しかし普段着のままで被ったそれはあまりにも不自然であった。
懲りもせずその後もありとあらゆる色とデザインのウィッグを試してみた結果、どうやら自分には薄い色のウィッグの方が似合うらしいということがわかってくる。通常人気のある自然なブラウン系(いわゆる茶髪)はあまりしっくりこない。それなら金髪の方が断然似合うと周囲からも言われる。
薄い色というだけでなく、突飛な色も結構似合うようなのだ。ちょうどその頃ロリータ系のファッションをよく着ていたこともあり、ピンク、パープル、ミントなどのパステルカラーや、プラチナブロンドなどの金髪系のウィッグもよく被っていたのだが、意外とそういう色も好評だった。
長さもショートボブからスーパーロングまで、ストレート・カール・ウエーブなどなどデザインも様々なウィッグは、昔のテカテカでいかにもというウィッグとは異なり、ナイロンでできた人工毛だけでなく分け目も地肌もとても自然でよくできていた。それが三千円程度で手に入る。
ちなみにツインテールのウィッグも気に入っていたのだが、しっかり装着しておかないと、いつのまにか片方なくなっていたりして、間抜けなことになるので注意が必要だ。

気に入って買ったのに、いまひとつ上手に着こなせない服はないだろうか。そんなときこのウィッグというものがとても役に立つのである。
コーディネートというのは、本来全身でバランスを取る。そのとき髪の色や形だけはいつもと同じで変わらないとしたら、上手く合わせられない場合があるのは当然だろう。服に合わせて髪の色も髪型も変える。そうすればトータルの印象をまとめられるため、どんな服でもそれなりに着こなせてしまうのだ。
以前町内会の役で交通安全協会(いわゆる安協)を仰せつかったことがある。年に1回だったか、朝小学校に通う子供たちが横断歩道を渡るのを見守るという役目があった。その際公民館に保存してある安協の制服を借りて着なければならないという決まりがあり、自分にあったサイズの服を持ち帰って当日着用する。サイズはともかくそのデザインたるや、いつの時代の流行かというとんでもなくダサいものであった。そのうえ色が、制服によくある空色(古いのでそんなにきれいではない)のような明るいブルーだったため、この世のものとは思えないほど似合わなかった。
もしあのときウィッグがあったなら、もっとなんとかなっていたかもしれない。金髪のウィッグにボディコンタイトスカートの制服では、小学生の見守りどころか通報されかねないだろうが。

地毛の三分の一近くが白髪になった現在、それならばと思い切って全部ブリーチしてしまったので、今は地毛自体がプラチナブロンドになっている。一部淡いパープルが入っているので、それこそファンシーなウィッグを被っているかのような状態だ。職場の病院では患者さんたちに評判が良い。
服に合わせて、今度は黒髪のウィッグを被ってみるのもいいかもしれない。
ウィッグは、ファッションの自由度を上げてくれる力強い武器だ。ウィッグがあれば、着られない服はないと言えるだろう。
ひとつ問題があるとしたら、あまりにも様子が変わるので、毎回会う度に違う人になってしまうことくらいか。
それもまた、一興。


登場したウィッグ:ツインテール
→フルウィッグを被った後にテールの部分をカニクリップで挟んで付けるのだが、結構重い。なので落ちやすい。先に少し髪束を縛っておいてそこを挟むと落ちにくいそうだ。
今回のBGM:「Life is a Cabaret」by Ute Lemper
→ドイツが誇るヴォーカリストの彼女、クルト・ワイルの曲も絶品。


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