225回 バスガールは行くよ


高速バスに関しては言いたいことが沢山ある。
距離を問わなければ、高速バスには少なくとも1000回以上は乗車しているので、その資格はあると思う。

前の職場は同じ県内でも自宅からは離れたところだったので、平日単身赴任のような状態で勤務していた。
火曜の朝高速バスに乗って出かけ、金曜の夕方また高速バスに乗って帰ってくる。その間は職場近くのアパートで過ごすのだが、実質12時間以上職場の病院にいる上に、当直もあったりするので、殆ど病院に棲んで(住んで、ではない)いると言っても過言ではない。なので自分の中では、高速バス→病院→高速バスというイメージなのだ。
毎週毎週これを繰り返して10年以上、単純計算でも1000回を超えることはおわかりになると思う。これだけ乗っていると、予約センターの受付の人から、もちろんバスのドライバーまで、だいたいのメンツは把握できる。特にドライバーの場合は乗り心地に直結するので、当たり外れと言っては失礼だが、一喜一憂することも多かった。
もちろん殆どのドライバーは、運転技術も接客態度もプロらしく気持ちよく乗車できる。だが一度最初から最後まで独演会のようにアナウンスをするドライバーに当たった時はまいってしまった。あなたの話を聞きにきてるんじゃないと閉口したものだ。

全く縁がないという人もいるだろうから、ここで高速バスとはなんぞやということを念の為に書いておこう。
身も蓋もない言い方をすると、高速バスとはその名の通り高速道路を利用するバスのことである。運賃の安さと利用のしやすさで、飛行機よりも大きな市場規模を誇る移動手段だ。面倒な乗車手続きなしにバス停から簡単に乗れて、乗り換えなく長距離移動ができる高速バスは、長らく人々に愛されてきた。
高速バスの歴史は1960年台に始まる。最初はまだ高速道路自体ができていなかったので、「急行バス」という名で長距離路線を走るバスが運行を始めた。1964年に名神高速道路の開通を皮切りに、路線バスを運営する事業者が参入し出して「高速バス」という名前が定着していく。同じ年に開業した東海道新幹線と並んで、高速バスは最先端の乗り物であったという。

実は法的には「高速バス」というカテゴリはなく、観光バスと称される「貸切バス」と「路線バス/乗合バス」という2種類の区別しかない。
以前は高速バスの中でも、貸切バスは「高速ツアーバス」、乗合バスは「高速路線バス」というように分かれていた。高速ツアーバスというのは、旅行会社から運行を依頼された貸切バス会社が運行するもので、乗客は「旅行契約」を結んで乗車する。一方高速路線バスを運行するのは路線バス会社なので、乗客とは「運送契約」を結ぶことになる。
高速バス市場の拡大により、多数の会社が新規参入をおこない、価格競争や経費節減、そしてドライバーの過重労働などの問題が生まれた。その結果起こったのが、2007年のスキーバス事故と2012年の関越道居眠り運転事故であり、どちらも多数の死傷者を出す大惨事となった。
格安料金で運行している高速ツアーバスに当時一度だけ乗ったことがあるが、単に狭いとかの問題ではなく、車体の物凄い振動と縦横の揺れが凄くて、これは明らかに整備不良だろうと不安になったものだ。この振動のせいで、一緒に乗っていた連れ合いの眼鏡のネジが緩んでレンズが落ちた。あり得ない。

高速ツアーバスの安全管理の問題が危険視されることになったため、2013年8月からは、それまでの2種類の高速バスの良いところ取りで「新高速乗合バス」という制度に一本化された。
現在の高速バスは、以前よりかなり車内環境も向上している。
昔はなんと言っても車内禁煙ではなかったのだ。非喫煙者にとって、長時間狭い車内で副流煙を吸わされ続けるのは相当の苦行であった。今でも「喫煙はご遠慮ください」というアナウンスが流れるが、まだ完全禁煙ではなかった頃、高齢の男性客が「遠慮しない」と公言して吸っていたのを絶対忘れない。「遠慮」などという生やさしい言い方では通用しない人がいるのだ。ここは「No Smoking!」だろう。
通常は4列シートだが、長距離路線では3列や2列、カーテンなどの仕切り付きのシートもあるという。特に夜行バスではプライベート空間の確保は大事なので、価格は高くなるだろうが人気があるのはよくわかる。居眠り運転防止などのために自動化も進んでいるらしい。
ゆったりした車内でひと眠りしたら目的地に到着する高速バスは、大変楽でありがたい。

電車のように乗り換えに気を使わなくてもいいので、私用で上京する際にも高速バスを利用することが多い。
以前は終点の「新宿西口」の停留所は、降りる場所がその時々で違ったり、待合室も狭くいつも混んでいたりと不便であった。私が利用している路線以外も、停留所が分散してわかりづらかったので、2016年に新宿駅新南口の開設と同時に「新宿高速バスターミナル」通称「バスタ新宿」ができて、大変便利になった。
この「バスタ新宿」というネーミングは、確か公募で選ばれたものだ。最初はなんて安易なと感じたものだが、覚えやすく呼びやすいので今では結構気に入っている。

ここ3年はコロナ禍のせいで移動自粛していたので、高速バスとはご無沙汰だった。先日久しぶりに利用して、やはり楽で便利だと再確認した次第。
今年はもっと利用できるといいなと切に思う。


登場した言葉:長距離移動
→夜行便第1位は、東京から山口を経由して福岡に行くオリオンバス。運行距離1110km、運行時間15時間50分。昼行便では、東京から弘前を経由して青森に行くスカイ号が、距離715km、時間10時間50分で最長である。(2020年調べ)
今回のBGM:「THE SHOW MUST GO ON」by 筋肉少女帯
→最後の曲「ニルヴァナ」の歌詞に「ガラガラバッグ引きズッて 夜バスに飛び乗れ」というフレーズがある。バンギャでなくても、高速バスは遠征の頼しい相棒だ。


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