第56回 銀の竜の背に乗って


ゴールドよりシルバーが好きだった。アクセサリーの話だ。
ゴールドはなんとなく満ち足りた感じがして嫌だった。もっとハングリーでロックな存在でいたかったのだ。なのでソリッドでストイックな印象のシルバーのアクセサリーを好んで着けていた。私の肌色は黄味が強く青白いというタイプなので、決してゴールドが似合わないわけではなかったが、若かりし頃は頑なにゴールドを避けていた。

シルバーは比較的安価なので、若い頃は買いやすいということもあったと思う。それに加えてかなりゴツいデザインがあるので、ゴス好きとは相性が良い。大ぶりの、それこそドラゴンやサラマンダーといった幻獣たちやマニアックなストーンをあしらった指輪を、両手にいくつも嵌める。はっきり言って手はかなり使いにくい。でもいいのだ。武器になりそうなその指輪たちは、確実に自分を守ってくれるお守りだった。
ちなみにゴツい指輪といえば真っ先に連想されるであろうヴィヴィアンのアーマーリングには興味がなかった。へそ曲がりなので、一目でどこのブランドかわかってしまうようなものは極力避けたのだ。クロムハーツも好きだったが、あまりにもベタなのでこちらも敢えて避けた。まあどちらのブランドもなかなかに高価なので、当時は手が出なかったということもあったと思うが。
シルバーの怜悧で硬質な輝きは、私の考える少女性とも通じ合うような気がする。磨かなければすぐに錆びてしまうところとかも。
英国人ではないので銀食器を磨く趣味はないのだが、酸化して黒ずんだシルバーが磨けばまたその輝きを取り戻すのを見るのは気持ちが良い。なのでシルバーのアクセサリーは常にピカピカに磨いておくものだと思っていたのだが、その常識はインドで覆された。インドでは、アンティークのシルバー・アクセサリーは経年変化を経てまさに「いぶし銀」になっているのが良いものだと教えられ、目から鱗だった。確かにいかにも新しさを感じさせるピカピカのものよりも、そういったくすんだ色のアンティーク・シルバーは、年月を耐えて生き残ってきた存在感を自ずから醸し出していて、とても格好良かったのだ。

そうやって新しいものも古いものもシルバーを愛していたのだが、ある日突然銀アレルギーになった。ずっと嵌めていた指輪に密着していた皮膚が赤くなり、ネックレスチェーンもシルバーのものは痒くなるので着けられなくなってしまった。夏に汗をかいた際、汗と反応して銀イオンが溶出し、それが体内に入ってアレルゲンとなったのだろう。
それ以降、冬など汗をかかない時期の短時間の装着なら問題ないのだが、シルバーをずっと着けていることはできなくなった。それまでほとんどシルバーしか着けてこなかったので、これはかなりのショックな出来事であった。ゴールドも着けてはみたが、なんとなくしっくりこないことが多い。そうだ、同じ銀色なんだからプラチナかホワイトゴールドにすればいいのだと思ったのだが、両者ともやはりシルバーとは微妙に色が異なる。どちらもアレルギーにはなりにくいので使い勝手は良い。でもそこにはあのシルバーの、すぐ黒くなってしまう面倒くさいところや、その酸化さえもまた美しさとして愛せる懐の広いところはない。

思うに私は、シルバーの変化して止まないそのダイナミックさを愛していたのではないか。プラチナやホワイトゴールドは安定していて安心感がある。
でもそもそもシルバーを好んだのはロックな存在で在りたかったからだし、その精神は変化を恐れず突き進むその無謀さに基づくものではないか。ロックミュージシャンたちがシルバーを好むのも、おそらくそういった「生涯一ガキ」の覚悟に拠るものと思いたい。
自分の心が守りに入りそうになった時、またシルバーの指輪を取り出して着けてみよう。
これからも戦い続けられるように。


登場したブランド:クロムハーツ
→クロスや百合のモチーフで有名な言わずと知れた「キング・オブ・シルバー」。重いです。
今回のBGM:「Fallen」by Evanescence
→ジャケットのエイミー・リーのゴスな写真と突き抜ける澄んだ高音が印象的。まだこのアルバムが出た頃は銀アレルギーじゃなかった…。


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