241回 カプセルの中の宇宙


ガチャ、ガチャガチャ、ガシャポン、ガチャポン。
誰もがいずれかの名称で呼んで回したことがある、カプセルトイという総称のおもちゃである。店舗の店先やスーパーのトイレの脇、ゲーセンにもあったかもしれない。
この何十年かで確実にその存在感を増してきたこのガチャ(とりあえずこの名前で統一する)は、いまや大人のコレクターズアイテムとして堂々たる一大分野を築いている。ガチャのマシンが何十台もずらっと並んだコーナーを見ると、かつてひっそりと片隅に置かれ、たまに子供が硬貨を握りしめて回している姿を見るといった風景は、遥か彼方になったのだなと感慨深い。

ここで一応ガチャの歴史についておさらいしておこう。これはなかなか壮大なので詳しく書き出すと長くなるので、ざっとなぞるだけにしておく。
そもそもの始まりは、1888年にトーマスアダムス社のガムマシンが、ニューヨークの高架鉄道のプラットホームに設置されたことに端を発する。
そして「チューインガム王」と呼ばれ財を成したウィリアム・リグレーが、ガムの自動販売機に景品の概念を持ち込む。因みに日本で最初に発売されたガムも、このリグレー社のものだったという。

1930年年代、日本で製造されたセルロイドの玩具が盛んにアメリカに輸出されていた。太平洋戦争の時期こそ輸出は禁止されたが、終戦後の1946年から早速玩具の輸出は再開されたそうだ。
レスリー・O・ハードマンは、アメリカでバルクベンディングマシンと呼ばれるキャンディーやガムと景品が出てくる自販機のビジネスで成功していた。現在デフォルトとなっているカプセルの原型は、彼の会社ペニーキングが開発したものである。海外進出を試みたハードマンは、以前から玩具の輸出で親交のあった重田龍三・哲夫の重田兄弟と共に、カプセルトイの自販機を扱う会社を設立する。
1965年2月17日に彼らが創立したペニイ商会が、日本に最初にガチャを導入したのだ。この2月17日はそれに因んで「ガチャガチャの日」とされている。

その後1969年には、日本独自のガチャメーカーとして今野産業が創設され、ガチャビジネスの先駆者となった。そして満を辞して1977年に、キャラクタービジネスを引っ提げてバンダイが参入し、ガチャも100円機の時代を迎える。それでも尚、ガチャは日陰者だった。
その当時のマシンは大きさもそれなりに大きく、更に電気を使用するため、店でも厄介者扱いされることが多かった。そのためどうしたら店に置いてもらえるかリサーチしたガチャメーカーのユージン(現タカラトミーアーツ)は、コンパクトで電気を使わないマシンを開発する。
1995年に発表されたそれが「スリムボーイ」と呼ばれる1台2面一体型の画期的なマシンであり、それに加えて景品にディズニーキャラクターを導入したことから、爆発的にガチャの市場規模が拡大することになった。

ガチャの景品というのは、基本的にミニチュアである。
近年格段に精度が上がってきていて、その精巧さときたら驚くべきものがある。しかしミニチュアというのだから、小さい。コレクターできちんとディスプレイして飾っているという人ならともかく、つい回してしまったという場合、はじめは机の上に置いて見て楽しんでいても、いつのまにか猫に払い落とされ、知らないうちに床に落ちていたものを、踏んで壊してしまったという悲劇がないとは言えない。いや、あった。
ガチャには、おもちゃや乗り物、食べ物に仏像、各種キャラクターから始まって、いまやどうしてこうなったというものまで存在する。
最近で一番話題になったのは「ギャルが折った折り鶴」だろう。“ガングロギャルが実際に折った折り鶴を再現した”というこのガチャ、果たしてどれほど需要があったのか気になる。

ガチャの醍醐味というのは、回したら何が出てくるかわからないというところにあるのだと思うのだが、大人の悲しさで、つい欲しいものがあると箱買いしてしまったりする。
箱買いしても全部揃うとは限らない。以前マヌルネコのフィギュアが欲しくてカプセルを沢山ネットで購入したら、開けれども開けれどもカピパラしか出てこなくて、絶望的な気分になったことがある、カピパラだってかわいい。しかしこんなにはいらない。
そうすると最初から「全種類揃ってます」などと銘打って売られているセットを購入したりして、そうなるともうガチャではないのではと思うのが、なかなか難しいところである。

現在ガチャのメーカーは30社に及ぶと言う。
何十にも及ぶ部品が入っていて組み立てる仕様のプラモデルといってもいいものや、小さく折り畳まれたものを広げれば立派に実用使いできるバッグやポーチ。企業コラボのリアルな食品サンプルから、恐竜に各種生き物などなど。いずれも工夫を凝らし知恵を絞って、面白く楽しく感心するほど良く出来ている。
いまでは環境への配慮から、プラスチックのカプセルを回収するだけでなく、そもそもプラを使わない方式のガチャもあるという。

これからもガチャは進化し続けるだろう。我々が小さきものを愛する限り。
やはりガチャは回してこそ、だな。


登場したマシン:自販機
→紀元前215年のエジプトには、聖水を売る自販機があったという。恐るべし、古代エジプト。
今回のBGM:「ポータブル空港(rmx.ver)」by CAPSULE
→2004年に公開されたスタジオカジノ(スタジオジブリの別部門)の劇場短編アニメ作品。いまをときめく中田ヤスタカのユニット「capsule(現CAPSULE)」が音楽を担当した。


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