第68回 ブラバン!


高校1年生の時、ブラスバンド部に入っていた。
実は最初マンドリン部に入るつもりだったのだが、それまでピアノとエレクトーンというキーボード系しか嗜んでこなかったのでどうしても弦に馴染めず、お試し入部で挫折してしまった。だが音楽系の部には入りたかったので、ブラスバンドを選んだのだ。ちなみに当時その高校に軽音部はなかった。
ブラバンにはキーボードはないので、パートはパーカッションを選んだ。なぜかはよく覚えていない。確かドラムを叩きたかったからのような気がする。そうだ、当時イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が大ヒットしていて、私もアルバムを愛聴していたのだが、そのドラムスに惹かれて自分も叩いて見たいと思ったのだった。

パーカッションというパートはもちろんドラムだけでなく、とにかく「叩く」タイプの楽器全般を受け持っている。
最初はひたすらスティックを握って叩く練習だ。もちろん本物の楽器なんて触らせてもらえないから、漫画雑誌を楽器に見立てて前に置き、遅いリズムから次第に早く叩くことを延々と30分以上繰り返すだけである。しかしこれが難しい。なかなか一定のリズムで叩けない上に、変に力が入ってしまってすぐに腕が疲れる。本当なら手首のスナップを効かせてほとんど力を入れずに叩かなければいけないのだが、それができない。
来る日も来る日も練習を続けてやっとなんとか形になってくると、今度は実際にスネアドラムやティンパニを叩かせてもらえる。太鼓の皮の調整も必要となるので、その練習もする。ティンパニは曲の途中で音程を変えたりもするため、耳も良くなければならない。同じ叩く楽器としてトライアングルやシンバル、鉄琴や木琴までパーカッションの守備範囲となるので、曲目に合わせてとにかく学ばなければならないことが沢山ある。叩く道具もスティックだけでなくマレットもあるし、そういえばバチで和太鼓も叩いたのだった。

秋の学園祭での発表に向けて、私が在籍していた年に選ばれた曲は、ショスタコービッチ作曲の「交響曲第5番第4楽章」であった。俗に言うところの「ショス5」である。指揮を受け持っていた上級生の先輩の趣味だったのだが、かなりの難曲だ。パーカッションの出番も多い。
どんな曲かもまず知らなかったので、近くにあった東京文化会館にある資料室でいろいろな演奏をスコアを見ながら視聴した。パーカッションは大事な場面で結構目立つ登場をするため、朝練のみならず週末や夏休み中にも強化訓練で厳しく練習をさせられたのが印象深い。
自分の担当は他の数人と一緒にスネアドラムだったので、一人じゃないという安心感があった一方、シンバル担当となった同級生はかなりの重圧を感じていたようだ。なにせシンバルである。ただでさえ目立つ上に、この第4楽章においてはクライマックスで登場する。しかしその登場のタイミングが難しい。さんざん練習を重ねたにもかかわらず、本番の学祭1日目の演奏で彼は1拍出遅れた。痛恨のミスである。翌日2日目の演奏では、彼は担当を外されてしまった。
その後いろいろあって私はブラスバンド部を辞めてしまったのだが、いまでもこの「ショス5」を聴くたびに彼のことを思い出す。

アニメ『響け!ユーフォニアム』の影響もあり、ブラバン内のそれまで比較的マイナーだった楽器にもスポットライトが当たるようになった。チューバやユーフォニアムといった大型の楽器を女性が演奏するのも当たり前になってきたのは、とても良い傾向だ。
ブラスバンドというからにはもちろん金管楽器が主体であるのだが、パーカッションという縁の下の力持ち的な役割のパートを経験できてよかったと思う。屋上にあった部室のドラムセットでこっそり練習した「ホテル・カリフォルニア」は、結局へなちょこのままだったが。


登場した楽器:ティンパニ
→スティックではなくマレットで叩く。大きな太鼓なので叩くのは大変気持ちが良いが、なかなか叩かせてもらえない。
今回のBGM:「錨を上げて」チャールズ・ツィマーマン作曲 エイドリアン・ボールト指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
→学祭恒例で先生に指揮をしてもらう企画というのがあった。事前に必ず「指揮者の方は見ないで演奏するように」というお達しが出る。見るとかえってわからなくなってしまうからである。

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