第71回 お嬢さま、お手をどうぞ


冬場は特に手が荒れる。ただでさえ乾燥する上に寒くて血行も悪くなるから、カサカサになりがちである。放っておくと指先に亀裂が入りあかぎれになってしまうこともある。
職業上一日中手を洗ってばかりいるので、余計にリスクは高い。お湯で洗うと皮脂を根こそぎ持っていかれるし、水はただでさえ冬は冷たいので長時間さらされるのはとても辛い。折衷案でぬるま湯程度にしてみるが、しょっちゅう洗っていれば荒れることには変わりはない。
一番加齢が現れるのは手と首と言われている。首はともかく手は、他人の目にもつきやすいし、あまりガサガサでは体裁が悪い。すべすべにしておくにこしたことはないのである。

ということで、ハンドクリームの出番だ。
カバンの中に、あるいは机の中や家の何処かに、ハンドクリームがひとつもないという人は珍しいのではないか。種類を問わなければ、なにかしらハンドクリームの類は存在している確率が高い。
ドラッグストアに行けば、ハンドクリームだけで一大ジャンルが占められている。特に冬場になると途端に様々な効能書きがついたハンドクリームがわらわらと増殖して、どれを買ったらいいのか迷ってしまう。それに加えて化粧品ブランドからも、こぞって魅力的なハンドクリームが沢山発売されている。素敵な香りのものも多く、そうでなくても保湿やらUVやらいろんな機能をうたったハンドクリームが数多く売られていて、もういくつハンドクリームを買ったのか覚えていない。
本来ハンドクリームの役割としては、皮膚に油脂の薄い皮膜を作ることによって水分の蒸発を防ぐといったものだろうから、油を塗っておけばいいようなものだが、そういうことではないのだ。ワセリンでも基本的な役割は十分果たしてくれるのだが、手先はいろんな作業をするのでベタベタになると厄介だ。
一時期皮膚科でアトピー性皮膚炎や熱傷の治療に処方されるヒルドイドが、究極の美肌クリームなどという煽り文句でブームになったことがあった。そのため本来と異なる目的で処方を希望する患者が殺到して、必要な患者に行き渡らないばかりか保険適応上も大問題となったのだが、医薬品なので治療目的以外に使用することは副作用も含めて大変よろしくない。
それにはっきりいって美肌の万能薬なんてものは存在しないのである。

ではどうしたらすべすべの手肌を維持できるのか。
これは他の部位の皮膚にも言えることだが、できるだけ紫外線を浴びずたっぷり水分を与えて油分で蓋をする、これに限る、というかこれしかない。なのでUV防止・保湿・クリーム状という3点を兼ね備えたハンドクリームを選べば良いことになる。しかしこれがまたなかなか微妙なのだ。普通のハンドクリームには紫外線防止効果がなかったり、紫外線防止クリームは香りがあまり良くなかったり乾燥しやすかったりと、帯に短かし襷に長しでこれぞ!というものがない。結局紫外線防止クリームに別のハンドクリームを重ね塗りすることになり、そうなると手間がかかるため塗り直すことをせず、効果がいまひとつになってしまったりもする。
そういうわけでハンドクリーム・ジプシーになり、毎年季節毎にいろんなハンドクリームを購入しては使いかけのものが溜まっていく。最後まで使い切ったハンドクリームなど、いくつもないのではないだろうか。
まあその時の気分や体調、肌の調子によっても使い分ければいいのだが、それにしても多すぎるような気がする。ハンドクリームはちょっとしたプレゼントにも良いので、つい選んでしまいがちだが、今度はリップクリームにしてみよう。あ、そういうことではないか。

自分にとっても他人にとっても、一番目につく部位は手であるので、手先のお手入れだけは怠らないようにしている。
指の長さや爪の形、肌の色などはともかく、すべすべの手肌は維持しておきたい。これが私の唯一の外見に於けるこだわりである。


登場し(なかっ)たハンドクリーム:ユースキン
→けっして良い香りとは言えないしベタベタするので日中はあまり塗りたくない。しかしどんなに荒れた手でも、これを寝る前にたっぷり塗って寝ればあくる日には嘘のようにつるつるになっている。最強である。しかも安い。
今回のBGM:「皇帝円舞曲」ヨハン・シュトラウスⅡ世作曲 レオ・ブレッヒ指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団
→シュトラウスの3大ワルツの中の1曲、舞踏会の定番曲である。かのカラヤンが8回も録音を残したほど気に入っていたのは、”帝王"と呼ばれたことにも依るのかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?