第33回 二人でお茶を


最近ではアフタヌーン・ティーもだいぶ一般的になった。
ホテルの季節イベントメニューとしても人気を博し、「○○のアフタヌーン・ティー」といったテーマを決めて提供する方式も多い。3段に連なったティースタンドに乗せられて、色とりどりのバラエティに富んだアイテムが運ばれてくる様子は、誰でもわくわくするだろう。
そもそもアフタヌーン・ティーというのは、ご存知の通り英国のティータイムの習慣であり、もっと遅い時間に摂る夕食がわりのハイ・ティーに対してロウ・ティーとも呼ばれるものである。元々は貴族の優雅なお茶のスタイルであったが、現在では英国内でもごく普通のお茶の習慣となっているという。ちなみにアフタヌーン・ティーの定番アイテムであるキュウリのサンドイッチ、栄養価が低いくせに超高級食材だったキュウリを新鮮なまま食べるのが昔上流階級の証だったとか。

とかくこのティースタンドに乗ったアイテムの方に惹かれがちだが、アフタヌーン・ティーというからには本来主役は紅茶であるべきだ。
少女のイメージからすると、やはりコーヒーよりも紅茶の方がしっくりくる。もちろんカフェオレやウィンナコーヒーといったものも少女とは相性が良さそうではあるが、ここは紅茶といきたい。フレーバー・ティーは種類も豊富で、季節に合わせて桜の香りなどもあるので楽しいものだ。マリアージュ・フレールやクスミ・ティーなどのフレーバーは缶も優雅で素敵なので、ファンも多い。マリアージュ・フレールの有名なブレンド「マルコ・ポーロ」を、コットンモスリンのティーバッグで入れるのもなかなか風情があってよろしい。
一番紅茶らしい紅茶というのは、正統派のダージリンなのかもしれないが、私はベルガモットの香りのするアールグレイを愛している。かなりユニークなところでは、ラプサンスーチョンなどという変化球も好きだ。
以前ロンドンに行った時に、フォートナム&メイソンの本店を訪れたことがあった。英国王室御用達であるフォートナム&メイソンは創立1707年という300年以上の歴史を誇るブランドであり、総合百貨店としてピカデリーに堂々たる店舗を構えている。上階のステーショナリー売場で猫雑貨を買い漁ったことはともかく、1階にある紅茶売場で如何にも英国紳士といった風情の初老の店員が、胸に一輪のカーネーションの生花を挿していたのが、とても印象的だった。

紅茶といえばインド。かつての英国領だったインドは、今でも紅茶を飲む習慣が根付いている。
これも随分前のことになるが、インド哲学の先生に連れられてインドに行ったことがある。行く前に先生のお宅で甘い甘い紅茶をご馳走になった時には、その甘さがくどくて紅茶はストレートに限るなと独りごちていた。しかし雨季が明けて気温が上がり調子のインドで、ただ息をしているだけで高温と乾燥により消耗していくような状態では、このたっぷりと砂糖が入った甘い紅茶がどんなに身体に染み入ることか。デカン高原を何千キロと横断する夜行列車の中、早朝寝台に投げ入れられる水筒の甘い紅茶を寝ぼけ眼で飲みながら起きたことは、今もはっきりと記憶に残っている。
暑い中熱い紅茶を飲む時に現地の人に教えてもらったやり方は、カップからソーサーに少し紅茶をこぼして冷ましてから、ソーサーをすするというものであった。ただしこれはかなりお行儀が悪いやり方なので、店ではやらないようにとのこと。そういえば流石に日本ではこれをやったことはないな。

どんな飲み方であれ、香りと味を楽しみながらゆっくり紅茶を飲むというのは、心が落ち着いて良いものだ。
喫茶去。ここらで一杯いかがですか。


登場した紅茶:ラプサンスーチョン(正山小種)
→紅茶の茶葉を松の薪で燻蒸して着香したフレーバー・ティーの一種。どこをどうとっても正露丸の香りであり、それ故なんとなくお腹に良さそう。
今回のBGM:「Royal Blood」by Royal Blood
→ブライトン出身のロック・デュオ。ドラムスとベースという変則的な2ピース編成ながら、ヘヴィでダーティなサウンドは英国らしい。アートワークもスタイリッシュで格好良いのだ。

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