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公認会計士試験の誤解を解く 会計と簿記の違い編


ー会計士試験=仕訳の勉強とか思ってませんか?

公認会計士試験と聞いて、アナタはなにをイメージしますか。
電卓、簿記、仕訳、監査、大学生・・・。キーワードとしてはそんなことろでしょうか。
私のイメージは、
「会計士=給料は良さそうで専門性もありそうだけど、なんとなく地味」
「一部の大学生が必死に勉強する資格」
「自分とはまったく無縁な資格」
「メガネかけている人多そう」
そんなものでした。

今、公認会計士試験を終え、合格した身として言えることは、イメージ通りの点もありますが、決定的に違う点もいくつかあるということです。

その代表格が、公認会計士試験=仕訳の勉強という先入観です。
意外に思われるかもしれませんが、実は、公認会計士試験において、仕訳が出題されることは99%ございません。

仕訳が出題されないとしたら、いったい何が出題されるのでしょう。

会計士試験でいう「会計」の問題では、一言でいうと、「説明」が問われます。

「あるイベントが発生したり、会社が何か意思決定した場合に、数字をつかってどのようにみんなに説明しますか」

この問いにピンポイントで答える問題が、試験問題の99%を占めます。
その際は、仕訳をガリガリ書かず、その事象をまずは理解し、それをどう数値として表現すべきかをダイレクトに検討していきます。

実際に会計士試験を勉強しましたが、仕訳をガリガリ書くシーンは本当に限定的でした。
そして、それがすごく新鮮でもありました。

ー会計と簿記の違い

あれ?会計って左(借方)とか右(貸方)とかいいながら帳簿に記載する話じゃなかったっけ?あれってどっちがどっちか、必ずわからなくなるんだよなー。

そう思ってしまったあなたは、「会計」と「簿記」を混同している可能性があります。

ここで少し本質的な話をすると、会計(Accounting)の語源は「Account for」、すなわち「説明」に由来します。

初期の株式会社が成立し始めた17世紀初頭、より多くのおカネを集めるために、見ず知らずのひとからおカネを調達する必要性がでてきました。見ず知らずの人は、血縁関係や個別の信頼関係はないので、「いくら儲けたのか」ですとか「自分はいくら受け取れるのか」といった点について説明を要求します。そこで、資金を預かった経営者から、彼らに対して「説明」を行うーこれが、会計の発祥です。(田中靖浩「会計の世界史」(日本経済新聞出版)より一部抜粋し要約。)

一方、簿記はBook keeping、すなわち「帳簿」を「記す」ことを語源とします。言うなれば、簿記は、「本やメモとして記録を残す」といった意味合いが強いものとなります。事業の儲けをきちんと計算するための事務の体系とも言えます。

ー会計は実はコミュニケーションの学問

会計と簿記の違いはお分かりいただけたでしょうか。ざっくりいえば、簿記は「記録の体系」を学ぶのに対し、会計は誰かに対する「説明」を学びます。会計と簿記では、そもそもの目的が違うということだったのです。そして、会計士試験では後者、すなわち、「説明」する力がダイレクトに試されます。

このように、会計は、「説明」、すなわちその本質は「コミュニケーション」にあることは意外と知られていない点です。

ー日本における「お会計」事情

このような基本的な理解も浸透していない理由として、「会計」という単語がもつ2つの側面が考えられます。

辞書で「会計」と検索すると、まず最初に「代金の支払い。勘定」という解説がでてきます。いわゆる「お会計」としての会計の使われ方です。「お会計は?」と聞かれたら、十中八九「現金かクレジットカードかPaypayか」といった支払手段を問われているのであり、「説明」が求められているわけではありません。日常会話で会計という単語が使用される場合、ほとんどは支払いという意味なのです。ここに、会計士試験における「会計」と結びつかない要因があります。

加えて、会計という字源についてみてみても、史記で使用された「計は会なり」という言葉が由来らしく、「会」が大きく膨らむ、増大する、「計」が各方面に真実をいう、という意味があるそうです。
おそらく、かなりの知識人が、Accountingに対して「計は会なり」をあてはめて翻訳したのでしょう。しかし、現代の私たちにとって、字源そのものから会計の本来の意味を推察することは到底難しいでしょう。

結果、日本においては「会計」が「説明」の意味であるという理解は、よっぽどの国語マニアか、会計に深く関与する方々(代表例が公認会計士や税理士、企業の経理担当)に限られてしまうという事情があるのです。

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